一般社団法人 ウィメンズ・エンパワメント・イン・ファッション (呼称 プロジェクト WEF )のキックオフ・シンポジウムでは、パネル・プレゼンテーションとディスカッションもありました。パネラーには 3名。それぞれ異なる分野で新境地を開いた、と言える女性にお願いしました。
まず、オンワード樫山の関東支社長の上野恵子氏は、大手アパレルで初めての営業担当執行役員です。関東支部が新設された時からのメンバーで、大型ブランドの商品担当を任された事がやる気と自信につながり、現在は、80人の総合職とその下に1000人のファッション・スタイリストを束ねて百貨店の販売をマネージして居られる方です。
経済産業省 経済社会政策室長を3年務めて大きな実績を残された坂本里和氏は、2週間前の異動で中小企業庁の創業・新事業促進課長のポストにつかれたばかりですが、経産省では「ダイバーシティ経営企業100選」や「なでしこ銘柄」などに取り組まれ、4人の子育てをしながら活躍してこられました。
ジュエリーブランド「HASUNA(ハスナ)」の白木夏子社長は、イギリスの大学在学中に、貧困問題の研究にインドや南アフリカを訪問。インドでアウトカースト(カースト制度からも除外される最貧層)と一緒に生活をして衝撃を受け、貧困問題の解決にビジネスで取り組みたいと、フェアトレードのジュエリー会社を創立した方です。数多くの受賞のほか、昨年はダボス会議にも招かれました。2歳のお子さんを伴って会場入りされました。
パネラーには各20分のプレゼンテーションをお願いしました。上野さんと白木さんは、それぞれ、自分のキャリアの経緯と仕事にかける思いを述べられました。坂本さんは、『成長戦略としての女性活躍の推進』をテーマに、多面的で分かりやすい話をして下さいました。たとえば「女性役員が1人以上いる企業は、能力の範囲拡大やガバナンス強化等により、破綻確率を20%減らせる」。あるいは「ワークライフバランスに取り組む企業―すなわち育児介護支援や柔軟な職場環境推進に取り組む企業は、何もしない企業に比べ生産性が2倍以上高い」といったデータは、ダイバーシティと女性活躍が経済や社会にもたらす好影響の説明として説得力がありました。女性の60%が出産を機に仕事を辞める事、日本女性の就労は、今だにM字カーブ(出産・子育て期の離職で就労カーブがM字型を描くこと)で、先進国では唯一である、という事実も再認識させられました。
上野さんは洋服が好きでこの分野に入り、男性と同じように働いて、ブランドとショップを任され幅広い経験が出来た事が、今日に繋がっている、といいます。岐路に立った時には悩みつつも努力した経験が原動力になる。仲間や周囲の理解とサポートも仕事を続ける支えになった。また、「服は鎧。自分を励ます応援歌」ともいわれました。 40歳で課長になって仕事か家庭かに悩んではじめて、キャリアや人生は人それぞれによって異なる事に気付いた、との話もありました。
白木さんは、女性中心で会社を運営しようという考えから、そのためにはまず自分自身が子育てを、と考え、実行したといいます。世界の各地から、直接、またフェアトレードで仕入れるために、海外出張も多い生活をされていますが、ワークライフのバランスについては、自分の時間さえコントロールできれば両立は可能。毎日子どもを寝かせた後の時間を仕事に充てることで、自分の時間を作り執筆などに使っていると語りました。
男性の管理職が多く参加されていたことから、司会の生駒芳子さん(WEF理事)が、「女性を職場で活用するためにどうしたら良いか」についてパネラーの意見を求めました。坂本さんは、「女性は自己評価が低い傾向がある。女性が躊躇しても思い切って任せてみると意外と上手くいくことが多い。時間的な制約が仕事の成果に影響を与えないよう、フレキシブルに働ける環境を作ることも大切」と。上野さんは、「女性は小さなことでも楽しみを見つけようとする傾向があるので、そういうところを生かしてあげると良いと思う」。また白木さんは、「消費者としての直接的な意見を反映できる点は大きい。起業も女性に向いている選択肢だと思う」と述べました。
女性の社会進出とか、女性を活用すべし、などというと、「いまさら?」と言う方も多いかもしれません。しかしこのシンポジウムで、すぐれた能力を生かして活躍する女性達が講師として登場し、その体験を通じて、女性と男性が互いに力を発揮しあい、あるいは足りないところを補完し合う事が、どんなに優れた社会や企業を作るかを力説するのを聞きで、女性活躍はまさしくこれから、という感を強めた方が多かったのではないでしょうか。
(次回は、プロジェクトWEFがめざすもの、について尾原の想いを書きたいと思います。)