思いきって始めたブログの第1回目のテーマは、奇しくも「FIT特別セミナー」。FIT(ニューヨーク州立ファッション工科大学の略称)とは、そもそも私が1966年に留学してファッション・ビジネスに目を開かれ、その教科書であった”Inside the Fashion Business” を「ファッション・ビジネスの世界」と題して翻訳。日本に初めて「ファッション・ビジネス」の言葉と概念を紹介する結果となった大学です。

それから45年を経て、そのFITから、ジョイス・ブラウン学長とヴァレリー・スティールFIT美術館のチーフ・ディレクターを招き、FBの展望を開くセミナーを3月21日に開催したのです。

「グローバル時代の人材育成とJapan Fashion」がテーマのこのセミナーには、講師にFITからのお二人に加え、ファーストリテーリングの柳井正会長兼CEOを迎えました。セミナー企画のきっかけが、「震災1年目の節目に当たって、あらためて日本のファッション業界にエールを送りたい」というFITの意向にあったことから、東京ファッションウィークの時期を選んでJFWの後援も頂いての開催となりました。

柳井会長のメッセージは、強烈でした。「日本企業および日本のプロフェッショナルはどうあるべきか」のテーマについて、「題がすごいので、これでいいのかな、と思いますが、少しだけお話したいと思います」と始まった講演は、45分間、息もつかせぬ内容と迫力でした。

「東日本大震災が新しい日本を作る絶好のチャンスになるのに、日本では何も変革が起きていない。我が業界も変わらねばならない」。「日本はメルトダウンするのではないか。しかしどんな時にも、個人と企業は生き残らないとだめ。そのためには『世界に出て』革新的企業に成長すること。特にアジアは今後の10年で十数億人の中産階級が生まれる。ゴールドラッシュともいうべきビジネスチャンスだ。」「世界は激変している。日本はスピードが遅い。この10年で完璧に決まる。グローバル化とアジアに近い、という二大成功要件を活かせ。」

「日本人は、安定・安全・安心を求めるが、ファッションは、冒険をせねばならない。」日本人はこれまで「常識」にこだわり、人と同じことをする。「人と違うこと」を恐れるな。「身内の論理や日本人だけの集団主義」を脱出せよ。「自分に限界を設けるな。ひょっとしたらこんな事が出来るのではないか? 誇大妄想になれ。出来そうもない事が出来るから楽しいのだ。」

「日本人はすぐれたDNAを持っている。真贋を見極める目。真・善・美と独自の美意識。まじめ、忍耐心、利他主義。ビジネスでは世界最高の品質、きめ細かさ、サービス。これらの強みを、自信を持ってアッピールすべし。」

また、「世界で成功するには、ブランディングが不可欠。お客様は商品スペックだけでなく、感情と共感で買う。だれが、どんな企業が、どんな想いでこの商品を作り、販売しているのか。我々は何者なのか。それを語らねばならない」のメッセージは、海外進出の初期の失敗から得られた貴重な信念と拝察しました。

最後に、若い時に出会った言葉。いつもノートに書いて、その通りやる努力をしてきたマクドナルドの創業者レイ・クロックの言葉:

事業で成功するためには

BE DARING (果敢であれ)人の後について行って何が面白い。

BE FIRST 最初にやる

BE DEFFERENT 誰とも違ったことをやれ。

を満場の受講者に送られ、「自分の成功の理由です。皆様のご健闘をお祈りします」と結ばれました。

柳井さんのメッセージは、まさしく世界の有識者が日本に抱いている違和感であります。

なんとも刺激的・啓発的で、グローバル・レベルの、日本経営者には珍しい名講演に、私も感動したことを付け加えたいと思います。