「ファッション・ビジネスにおける留学」セミナーでは、ファッション企業の経営者の視点から(株)サンエーインターナショナル代表取締役社長 三宅 孝彦氏(FIT卒業生)に講演を頂きました。(6月28日開催) テーマは「今なぜグローバルなのか。求められるグローバル人材とは」です。
冒頭に三宅社長は、「グローバル化とは、海外で売ることばかりではない。これからのファッション・ビジネスは、多かれ少なかれ、海外のブランドやデザイナー等とのかかわり合いを持たざるを得ない」とし、同社の多様なブランド開発と展開をレビューしながら、サンエーインターナショナルにとっての「グローバル化」の歴史を、紹介されました。
1981年に米国 Pinky & Dianne のライセンス事業を皮切りに、同社が今日まで多様に展開してきた海外ブランドとの連携は、「オリジナル」 ( Jill Stuart)、「ライセンス」( Vivienne Tam、Cath Kidston など)、「インポート」(直販・卸: kate spade、DFなど)、「グローバル・ブランディング」( Margaret Howell)、に大別されます。これらはいずれも、時代の要請、すなわち消費者の変化や市場の競争状況に対応して、順次開発されたものだとのことでした。
海外のビジネスと関わり合う苦労は、単に言葉や文化の違いの問題だけではないことも、色々な場面で身を持って経験されました。「たとえばライセンス・ビジネスでは、デザインに関してブランド本部のアプルーバル(承認)を取らねばならないが、日本の市場を知らない現地のクリエ-ターに日本で売れる商品にするためのデザイン変更を認めさせるのは、非常に困難な仕事。クリエ-ター同志の信頼関係作りが不可欠になる。」あるいは「 M&A(企業買収)では、買収価格以外に巨額の弁護士費用などが発生する」事も、実際にやってみて再認識されたということでした。 (写真は講演中の三宅孝彦氏)
「次世代に向かって求めたい人材像」として、三宅社長が強調された4つの人材イメージは、ファッションの先端を走る企業としてのサンエーインターナショナル社が、多くの成功や失敗を経験しながら取り組んできたグローバル・ビジネスを通じて、得られたものだという事が良く分かりました。
「右手に感性、左手にそろばん」 Fashion is our business の企業理念をふまえて、三宅社長が上げた人材像は、下記の通りです。
「次世代に向かって求めたい人材像」
1.発展途上人間:すでに出来上がった人材ではなく、言ってみれば「現状不満足人間」
ポイントは ①自律的に進化・自己成長出来る資質・志向を持つ、②狩猟性=自分で獲りに行く態度、 ③実行感度=実行してゆくプロセスでの優れた感度。実行力+センス
2.フリークス:「変人」。人と違っている。好きなこと・得意なことについては「自分が一番」の自負
ポイントは ①物事の本質を深く端的に掘り下げられる ②アマチュアリズム(専門家になりすぎない) ③アンバランス(抜きんでた能力。バランス良い能力保持者でなくても可)
3.多様性を孕んだチームへのコミット:これからは多様性への対応が不可欠。それが出来る事
ポイントは ①コミュニケーションでイニシアチブがとれる ②視野を広げられる(尾原の解釈=聴く力、好奇心・向学心) ③柔軟性
4.突破力:現状を突き抜ける力。一昔前の「創造と破壊」では悠長すぎる
ポイントは ①型にはまらない発想力 ②孤高の人
三宅社長は、神戸大学卒業後、IT関連企業で3年間営業職として勤務の後、コロンビア大学で半年の英語研修を受けFITに入学。1992年に Fashion Merchandising & Management 専攻を卒業されました。その留学経験、1990年から1992年までのニューヨーク生活で得たものが非常に大きかったことを強調されました。
「留学の最大の収穫は、海外で、自分の生活を一から作らねばならない事の、苦労の体験です。自分も2年間の米国生活で計り知れない影響を受けました。ニューヨークで出会った多くの人たちは、FITに多数来ていた韓国人留学生も含め、『強い人間』が多かった。決して弱音は吐かない、なぜなら自分の意思でニューヨークへ行くことを選択した人たちだからです。」
“グローバル人材”は、最近では毎日のように見聞きする言葉になっています。しかしその意味するところは、非常に奥深いものがあります。その大前提は、外国に対しても、あるいは外国人に対しても、日本人に接するのと同様に自然体で対応できる態度とコミュニケーション力を持っている事です。しかし今日求められている、“グローバルにビジネスを展開できる人材”、という事になれば、三宅社長が強調されるように、「突破力を持つ、自律的に進化・自己成長出来る人材」、あるいは「しっかりした芯を持って、多様な社会や人間を包含できる、強い人材」という事になるでしょう。受講者全員が、納得、と感じた説得力のあるお話でした。
日本にこのような人材が増えることを、心から願っています。 以上
(次回は、パネル・ディスカッションでのFIT卒業生のメッセージ)