2012年 8月 の投稿一覧

<FBのNew Normal (新しい常態)③> 「わたしのサイズが無いなんて許せない」

 ユニクロが、主要なベイシック商品について、サイズを大幅に拡大することが、新聞に大きく報道されました。それも業界専門誌(繊研新聞)ばかりでなく日経などの一般紙が取り上げています。

 New Normal(新しい常態)―その3 は、「全ての人に、サイズにあった服を提供する」です。  

「Made for All (あらゆる人に良いカジュアルを)」をうたうユニクロでは、「ファインクロス・シャツ」のサイズを従来の5種類から115種類に拡大したとの事。首回りを1センチ単位で36~50センチまで増やすなどして、「セミオーダー感覚で選べる」ようにしたといいます。日経では、ユニクロのほか、クロスカンパニーやそごう・西武なども、特定の商品で要望の多い「小さなサイズ」の拡充を図っていることも報道されていました。いずれも、大いに拍手を送りたい動きです。

 このサイズ拡充、すなわち「わたしのサイズが無いなんて許せない」への対応も、まさしくこれからの時代のNew Normalです。既製品として販売される衣料品が、ごく一部の標準的体型の顧客向けだけになっている、というのは、これまでは通用したかもしれませんが、容認しがたいことです。

 日本の消費者は自己主張が少なく、これまで「体が太っていたり 小さかったりするのは、自分が標準体型ではないから仕方ない」と諦め、「何故私のサイズがないの?」と主張することを余りせず、サイズの合わないもので我慢したり、お直しをしたり、あるいはオシャレそのものから遠ざかったりして来ました。しかし、市場が成熟し高齢化も一層顕著になって来た今、この「忘れられた人たち」にむけて、これまでなかったサイズ展開をする事は、ビジネスとして非常に重要です。

因みに米国では、その名もずばり“The Forgotten Women”とする婦人服専門チェーンが1980年代の終わりには誕生して、話題を呼びました。またノードストロム百貨店では、80年代後半に既に、PBのメンズのボタンダウンシャツでは110を超えるサイズ展開、ローファーズの靴でも約90のサイズを用意していました。サックスなど、大きなサイズを扱うのを長い間ためらっていた高級専門店も、いまはこの顧客に力を入れています。

もう一つ重要なことは、日本のファッション業界では、標準的体型を「レギュラー」サイズとし、それ以外を「イレギュラー」と呼ぶことが当たり前になっているようです。しかし、「イレギュラー」とはいかにも半端もの、という感じの表現で、お客様に対して非常に失礼なことです。そもそも人の体型は、個性そのものであり、顧客の個性を重視しながら商品企画や販売をする事が不可欠であるファッション・ビジネスでは、許される事ではありません。米国では、小さなサイズを「プティット」、大きいサイズを「プラス・サイズ」「フル・サイズ」などと呼んでいます。

この「レギュラー」「イレギュラー」の概念は、高度成長時代にビジネス上の効率をねらって、不特定多数の最大公約数的体型を「標準」とし、それをファッションのコア市場とするところから始まっています。

しかし現代のように、あらゆる体型、あらゆる所得、あらゆる職業の人が、それぞれ自分に合った衣服を選択し着用する時代には、業界は、全ての顧客を、1人ひとりの個性として考えねばなりません。売り手側で勝手に決めた「標準サイズ」にはまらない顧客は、見捨てても十分売り上げが取れる」と考えていると、パイの奪い合いはますます激化し、収益を上がらなくなるのは目に見えています。 標準サイズ以外の市場は、サイズも多岐にわたり、リスクが大きいと考えられていますが、その中のある部分をターゲットとして、魅力ある商品を開発すれば、従来は不可能だったネット販売やソーシャル・メディア活用で販売を広げることが可能な時代になっているのです。

 New Normalとして提案したい事が3つあります。

1.お客様を、サイズ体型の「レギュラー」、「イレギュラー」で区分けするのは止めよう。

2.「標準体型」以外の市場は、オシャレな服の提供が不十分であったため、潜在需要が大きい。

3. ネットやSNSを活用し、コミュニティをつくるなどして、オシャレな「マイノリティ」消費者のファッション購買を促進しよう。

<FBのNew Normal (新しい常態)②> 「トレンドからマイ・スタイルへ」

ファッション・ビジネスの新しい常識「New Normal」として先回は、「トレンド離れする若者たち」について書きました。

 それでは、トレンドを さほど重視しない、あるいはトレンドに振り回されたくない、という人達は、ファッションについて、どんな「新しい常識」を持つようになっているのでしょうか?

先回も述べたように、New Normalという言葉は、米国のリーマンショックの後、人々の考え方や価値観の変化が、実際の行動として目立つようになって注目されるようになりました。しかしその兆候は、すでに、それ以前から深く静かに潜行していたのです。

米国のウォールストリート・ジャーナル紙のファッション記者であるテリー・エイギンスが、The End of Fashion  (ファッションの終焉)という本を、20世紀の終わりの年1999年に書きました。(日本語版のタイトルは「ファッション・デザイナー」2000年文芸春秋社) 彼女は、ファッションの世界に巨大な変化が起きていることを立証したいと、1年間の休暇を申請。ラルフローレンやダナ・キャランなどの米国トップデザイナーのビジネスへの突っ込んだ取材と消費者の意識の変化を照らして、ファッション・ビジネスの変化を明らかにした興味深い書物です。

本では、ドレスコードの消滅や、チープシックの台頭、ラグジュアリー・ブランドのマーケティング戦略(バッグを売るためにファッションショーをやる)などの分析をもとに、米国のファッション・ビジネスの変貌を説明しています。つまり、それまで当たり前だった、有名デザイナーが毎シーズン新しいコレクションを発表し、社交界のレディ達がそれらを華やかに身に付け、それがメディアによりマスに流行として広がる(滴り落ちて行く)という米国におけるファッションのヒエラルキーが崩壊した。そしてもう永遠に、元の仕組みには戻らない新しい時代に入ったというのです。

例えば、ドルチェ・ガッバーナの魅力的な新作サンダルが、高級専門店に並ぶと同時に、ディスカウント・チェーンのターゲットに、ほとんど同じデザインのサンダルが1桁違う安値、13.99ドルで並ぶといった事例です。さらに重要なことは、その商品を、かつてはディスカウンターなどには寄り付きもしなかった社交界の名夫人が、いまや当然の様に購入するばかりでなく、友達に「すごいでしょ。私、これ13ドルで買ったのよ」と自慢するまでになった、というのです。つまり、見栄や外観のために、高級店に行きブランドものにこだわる傾向が、ファッションの頂点に位置すると思われていた人たちの間で崩れ始めた、という指摘です。

この傾向は言うまでも無く、人々が、より合理的に物事を考えるようになり、自分自身に目覚めはじめ、自分に自信を持つようになり、世の中一般の常識に従う必要はなく、人と違っていても不安にならない、という、態度になって来たからでしょう。

まさしく 「トレンドに振り回されないで、自分のスタイルを大事にする」時代が始まったのです。 日本ではまず、「トレンドからライフスタイルへ」の動きが顕著ですが、ライフスタイルも、メディアやセレブのお薦めをフォローする段階から、外見だけでなく、自分の信条や大事にする価値観を基に、My Style を作り上げて行くのが、これからのNew Normalだと考えます。

 ファッション・ビジネスに関わる企業に期待されることは、それをどのように具体的に進めるか、という、難しいけれどもやりがいのある挑戦です。

<FBのNew Normal (新しい常態・新しい常識) ①> 「トレンド離れする若者たち」

 ファッション・ビジネスが大きな変容をせまられています。 今まで当たり前だったことが通用しなくなり、ゲームのルールが変わったように感じることが多くなりました。

 「ファッション・ビジネスの New Normal 」とは、FBの「新しい常態」。つまり「短期的な現象」ではなく、私たちが今後、念頭に置かなければならない「FBの新常識」とも言うべきものです。私が気になっている動きは、まず「トレンド離れする若者たち」です。 

New Normal(新しい常態・普通)という言葉は、米国金融界の大物あるモハメド・エラリアンの発言、「リーマンショックから立ち直った時、世界経済は危機前の姿とは全く別物になっている」との発言で使った言葉で、世界的に知られるようになりました。今まで「普通・当たり前」であったことが覆され、New Normal、すなわち「新しい普通」が一般化する、という指摘です。

 「トレンド離れする若者たち」はその代表的な潮流でしょう。日本では「ファッションのリーダーは若者」、とくに、服飾関連の専門学校や大学に通う学生の数が世界でも突出している日本は、クリエーターの予備軍としても、トレンドの牽引力としても、またファッション市場としても、若者が重要なポジションを占めてきました。

その若者たちが、以前のようにファッション、特にファッション・トレンドに興味を示さない。かつての若者が、デザイナー・ブランドにあこがれ、無理をしてでもトップ・ファッションを身につけようと努力したのと比べると、服飾を学ぶ学生ですら、最先端トレンドやクリエーションへの関心が薄れて、ファスト・ファッションやユニクロを愛用し、街の人気ショップで買ったもの、あるいは古着やリメイクものを身につけている。これは大変な変化です。もちろん、ユニクロもファスト・ファッションも、ファッションの重要な一部ですが、ファッション・トレンドの牽引力であった若者、特にファッションを職業にするために勉強している人達がこのように変化していることは、経済的に余裕がなくなった昨今の環境条件を差し引いても、若者の意識と価値観が明らかに変化していることを示すものでしょう。

 そんなことを考えていた時、杉野学園主催で『21世紀のファッションを考える―トレンド離れをする若者たちー』のフォーラムが開かれたので、参加しました(8月9日)。タイトル通りの内容で、とても啓発的でタイムリーな企画でした。講師陣は、添付のチラシにあるように、アート・ディレクターの浅葉克己氏と代表的なファッション・ジャーナリストの錚々たる方々でしたが、それぞれが「若者のトレンド離れ」についての体験や知見を述べられました。

このフォーラムを企画した杉野学園の織田晃教授は、繊研新聞社で長年ファッション記者として活躍した方で、定点的に服飾関係の学生の動向を調査しておられます。杉野服飾大学と桑沢デザイン研究所の学生 720人のアンケート調査では、トレンドを 『全く、あるいはほとんど意識していない』人が64%もいる。東日本大震災の後はさらに増えて68%になった、との事でした。

また、WWDジャパンの山室一幸編集長によれば、あるデザイン学校の生徒に「TGCは何の略語か?」を尋ねたところ、80%以上が Tokyo Girls Collection と正解したのに対し、「コムデギャルソンのデザイナーは誰か?」の質問には、正解が10%以下だったそうです。かつてはファッション・デザインを学ぶ人の全てが憧れた川久保玲の名前を知らない、とは驚くばかりです。これは一体、進化なのか退化なのか、の問題提起もありました。

有名デザイナーやトレンドがファッション・ビジネスの全てではないことは言うまでもありません。しかし、これまでこの産業の中核であったデザイナー・ブランドやトレンドへの若者の関心が低下していることは、ファッション業界にある者にとっては、まさに驚きであり、将来への不安を掻き立てます。

百貨店をはじめとする従来のファッション・リーダーとされた企業群の業績低迷も含めて、FBのNew Normal は、これまでとは抜本的に異なるビジネスへの取り組みを求めていると思えてなりません。