2012年 10月 の投稿一覧

<日本が世界に誇れるもの ① 「世界を変える50人に選ばれた柳井正氏」>

ユニクロの創業者、柳井正氏が、いま世界で注目を浴びています。

今回は 「日本が世界に誇れるもの」 の第1回として、柳井氏に関する、日本人にとって嬉しいニュースを紹介します。

FIT特別セミナーで講演する柳井氏(2012年3月撮影)

 日本のファッション・流通業界でユニクロが注目されるのは、売り上げがファーストリテーリング全体で1兆円に達するという規模の成長や世界各地への急速な出店、そしてヒートテックやウルトラライトダウンといった高機能商品が中心ですが、世界はユニクロを、より総合的で未来への道を拓く 「革新的なデザイン企業」 と見ていることを、強調したいのです。つまり、日本では同社を「服の小売業」として見ている場合がほとんどなのに対して、欧米では、「デザイン(設計)での革新企業=服のデザインに限らず店舗デザインやビジネスの仕組みのデザイン」あるいは「斬新なビジネス・コンセプト=『常識を変える・世界を変える』や『Made for All(すべての人に)』」を持つ企業だと見ているのです。

まず、最近の掲載記事では、米国のブルームバーグ・マーケット誌が「世界で最も影響力のある50人」の一人に柳井氏を選んでいます。金融・証券に強い同誌らしく、「2012年8月までの5年間で株価を158%上げた」ことと、中国市場へ積極攻勢をかけて何百店舗を展開する意欲を特記しています。(9月5日号)。選ばれた50人の中には、ティム・クック(Apple社CEO)やマーク・ザッカーバーグ(Facebook 創業者)なども入っています。

日経ビジネスの「稼ぐ経営者ランキング」(10月1日号)の特集も、柳井氏を第4位に位置づけていますから、企業を成長させる経営手腕を、日本も世界も認めているということでしょう。

柳井氏の別な受賞、Fast Company誌の Co.Design 50」(優れたデザインの企業あるいはリーダー50人)受賞は、「未来をデザインする企業」としての評価であり、非常に重要な意味を持つと私は考えています。 Fast Company はアントレプレナー的あるいは先端的なビジネス動向をカバーする専門誌で、米国ではイノベーションを志向する読者が支持するビジネス誌です。

 そのサブ誌、Fast Company Co.Designが、今年の「Co.Design 50」を発表しました。(Fast Company 10月号)。 柳井氏の受賞の説明として同誌は、「ミドル市場へ向けて、これまでの常識を覆す小売戦略をとり、店舗には十分のスタッフを投入、店舗ディスプレイにも高額投資をしている。売り上げは爆発的に伸び、ユニクロは急速に拡大し、かつてのGap がそうであったように、デザイン・アンバサダー(大使)になりつつある。」と書いています。

そもそも「Co. Design」のコンセプトは「business + innovation + design」、つまりビジネスとイノベーションとデザインの合体であり、その根底には、「これからは 『Good Design Is Good Business』 の時代」、「イノベーションが不可欠」の思想があります。この考え方は約40年前に、トーマス・ワトソン二世(IBMの元CEO)がウォートン大学での講演で話したことでしたが、当時は理解されるどころか、馬鹿げたことに聞こえたそうです。それが現在、革新にはデザインが不可欠になり、スティーブ・ジョブスのアップルにおける成功をひくまでも無く、全ての業種に共通な重要事項になっている、とCo. Design の編集長はいいます。

Co.Design 50」 特集では、現代のビジネスが如何に多様な要素を持ち、それらが互いに関わり合っているかを、ユニークな地図に描いて示しています。各要素は9つの柱として地図の上に立てられ、それらを線でつないだり交錯させたりすることで、現代のイノベーションが専門領域の壁を越え、学際・業際的になっていることを示す非常にユニークな図です。9つの柱とは、「教育者&キューレイター(学芸員)」、「グラフック・デザイン」、「インタラクティブ・デザイン」、「プロダクト・デザイン」、「ファッション」、「エグゼクティブ&パトロン」、「建築」、「インテリア」、「トランスポート・デザイン」、です。ちなみに柳井氏のポジションは、「ファッション」と「エグゼクティブ&パトロン」です。同誌は、受賞者50人は、みな複数の要素を領域として踏まえながら、さらにその領域の境界線を打ち破って、新しい未来を作って行く、としています。

(興味のある方は、下記のURLをご覧ください)

http://www.fastcodesign.com/1670792/infographic-50-people-shaping-the-future-of-design#1

「『未来は今、デザインされつつある』。これは奇妙な考えかもしれないが、今回選ばれた50人のデザイナーや教育者や経営者が、まさしくそれをやりつつある。Co.Design  のエディターたちは、専門領域の境界線を、未来を約束する新しい方向へ押しだすこれらの人たちを、今年の「Co.Design 50」 として選出した。」

 その一人として、柳井正氏が選ばれた事を、ファッション流通に携わる日本人として、非常に誇りに思います。

<FBのNew Normal (新しい常態)⑦>  「太めでもチャーミング」

 先回、ファッション・モデルが、現代女性の願望体型である「細身」「9等身」でなければいけないか? の問題提起をしました。「ファッションは、スリムで背の高い人でないと美しく着こなせない」というのは、長年にわたってファッション業界が消費者に刷り込んだ「願望イメージ」であり、実態はそれとは程遠い体型の人がほとんどなのに、その人たちも何とか理想形に近付くために無理なダイエットなどをする事の問題についてです。

 女性の美しさとは何でしょうか? 歴史をさかのぼれば、かの有名なサンドロ・ボッティチェリが 15世紀の終わりごろに描いた「ヴィーナスの誕生」や「春」に登場する3人の女神が、ふくよかな美しさに輝やいているのも見るまでも無く、「女性の美しさ」は時代とともに変化しています。(写真は、ボッティチェリ作「春」の一部で、春の自然の中で戯れる3美神)

 しかし、幸いなことに最近は、リアル・クローズが求められ、健康的美が時代の潮流になることにより、長年「大きなサイズはカッコよく見えないため」扱わない、の方針を通してきた有名ファッション店でも、欧米では大きなサイズの売り場を拡大するようになりました。売り場の名前もアメリカなら「プラス・サイズ」とか「フルサイズ」等のオシャレな名前を付けています。(間違っても、「イレギュラーサイズ」などとは言いません。)

例えばニューヨークのブルーミングデールズ百貨店もその好例ですが、商品の範囲は外衣ばかりでなくインティメート(インナーウェア)にまで広がり、写真にあるように、フォーカル・ポイント(売り場の中心となる)ディスプレイに、豊満なマネキンを置いています。このブランド Agent Provocateur (エージェント・プロヴォケイター)は、英国のデザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッドの息子が立ち上げたランジェリー・ブランドですが、ブランドの名前も映画「007」の美人スパイを想起させる「挑発的スパイ」というユーモラスなもの。デザインも大胆で斬新、繊細なレースや刺繍は、太めの人でも遠慮せず、堂々と美しさを競って欲しい、といったメッセージを発しているように思います。(このブランドは、太めのサイズだけを扱っているのではありませんが。)

デザイナーのダナ・キャレンは、決してスリムな体型の持ち主とは言えませんが、肩の大きく開いたドレスやドレープの美しい服を身につけ、チャーミングかつ堂々と活躍しています。彼女は、米国の、キャリア服の草分けであるアン・クラインのチーフ・デザイナーとして高い評価を得た後、独立して、アン・クラインのラインとは一味違う柔らかな、ジャージーなどを多用したラインで一時代を画しました。1980年代中ごろに大ヒットとなった彼女のストレッチのボディスーツが、仕事もファミリーも両立させようとする活動的で多忙な女性に、圧倒的支持を受けたことを懐かしく思い出します。ダナ・キャレンがオシャレと機能性を併せ持つボディスーツを開発出来たのは、まさしく、やや太めの自分の体にフィットさせたいニーズがあったからかも知れません。

 カール・ラガーフェルドは今年の3月、8年ぶりに来日して、「日本人女性は大きく変わった。太っていて美しい」という意味深長な発言をしました。「私は日本人女性たちがより太り、より魅力的になったことに気付いた。それはおそらく以前よりも多くのケーキやお菓子を食べているからだろう。」と記者団に対して語ったといいます。いつも辛辣なコメントを発して話題になるラガーフェルド氏ですから、これも辛辣な皮肉なのかと思いましたが、WWD紙によれば、彼は ”It’s changed a lot but it’s changed for the better I think. ,,,,, There’s a real change in the look of the Japanese people. Normally, before, they were all tiny. It’s the kind of beauty you get from junk food.” と述べたとの事。つまり「大きな変化だが、いい方へ向けてだ。、、、日本人のルックスは本当に変化している。以前は皆とても小さかった。身体によくない食べ物を食べた結果の美しさだ」。 彼特有のひねったユーモアだとしても、小柄で子供っぽかった日本女性が、大きく美しくなった、と解釈したいと思います。

 「太めでも美しく」、「高齢でも美しく」。 それをサポートするのがこれからのファッション・ビジネスだと考えます。