ユニクロ奨学金の対象に指定された3つの大学院のうち、ファッション関連の2校、「ファッション・ビジネス」領域で選ばれたFITと、「ファッション・デザイン」で選ばれた Parsons School of Design の指定専攻コースの概要を紹介します。 応募したい方は勿論の事ですが、いま世界のトップ大学が取り組んでいる、ファッション関連分野での新しい教育プログラムについて、多くの人に知って頂きたいからです。 (今年の秋入学の応募締め切りは、1~2月ですが、奨学金は引き続き2014年度にもオファーされますので、ご関心のむきは、是非、それぞれの大学のホームページで応募要領を確認し、早めの準備をお勧めします。)
<Parsons School of Design(ニューヨーク)>
ニューヨークにある パーソンズ(正式には Parsons The New School for Design) でユニクロ奨学金の対象となるのは、大学院の Fashion Design and Society コースです。これは、2年間の修士プログラムで、授与される学位は Master of Fine Arts です。
ファッション・デザイナーの輩出で知られる同校ですが、2010年に設立されたこのコースは、米国でも初めての新しい目的を持っています。その狙いは、「ごく少数の世界級デザイナーに、ファッションのグローバルな理解を習得させること」にあり、そのためのカリキュラムは、業際的かつ国際的に組まれています。(ホームページ http://www.newschool.edu/parsons/mfa-fashion-design-society/ 参照)
このコースは、 Fashion Design and Society =「ファッション・デザインと社会」のタイトルが示すように、ファッションを、より幅広い異業種やカルチャーに関連させて理解するとともに、自分のアイデンティティを突き詰め、自分のアイデンティティを通じてブランドの DNA を再解釈したブランドの具現化に重きを置いているとのことです。学生が、プロフェッショナルとして活躍したり、コンセプト構築や理論家として活躍する機会を提供するプログラムです。
このコースは、同校の卒業生であるダナ・キャランの発案と出資で発足しました。ファッションに関して広い視野を持ち、ファッションの世界に変革をもたらした彼女のキャリアを反映する形で、組まれたコースだとのことです。そのほかのスポンサーには、デザイナーのダイアン・フォン・ファステンバーグ、LVMH や、元ダナ・キャレン社の社長の滝富夫氏などが、奨学金などで支援をしています。
産業界と教育界のギャップを埋めることを狙ったこのコースは、ファッション・デザインの教育を、グローバルな政治経済の文脈の中で再構築するものです。学生は、ファッション業界の支援のもとで、自ら選んだテーマのプロジェクトを通じて、デザイン、製造、物流のサイクルや、社会的、評論的、そしてエコロジー的次元のファッションを、研究することを学びます。
カリキュラムは4学期に分けられ、合計60単位の取得が必要で、他校からの単位の移動は認められません。卒業のためには、3.0 の GPA (Grade Point Average =成績の平均点)と、必須の課題などの期限までの提出が要求されます。企業経験者が望ましいということですが、クリエイティブな人材と認められれば、大学からストレートでも、入学可能だとの事です。
このコースは2010年に開設され、今年初めての卒業生18名を出しました。留学生も多く学生の出身国は13か国。うち2名が日本人だったそうです。就職先は、ナルシソ・ロドリゲス、DKNY、カルバン・クライン、などに。日本人のうち1人はラルフ・ローレンにアシスタント・デザイナーとして就職が決まったとのことです。(繊研新聞、2012年12月20日号の「FRの“トモダチ―ユニクロ・フェローシップ”」記事ご参照)
<FIT(ニューヨーク州立ファッション工科大学)>(FIT GFM コースでの グループ・プロジェクト発表風景)
FITでユニクロ奨学金に指定されているのは、“ファッション・ビジネス”のマネジメントを学ぶ大学院コース、 GFM (Global Fashion Management) です。このコースは、世界でも類の無い、グローバルで実践的な幹部養成プログラムで、学位も MBA ではなく、 Master of Professional Studies (MPS) というユニークなものです。(ホームページ Global Fashion Management 参照)
3大陸にまたがる国際教育、という圧倒的な差別性を持つこのコースの目的は、トップマネジメントの地位にふさわしい人材に育てることにあります。3大陸とは、ニューヨークにあるFITが、香港工科大学 (Hong Kong Polytechnic University) とパリの IFM (Institut Français de la Mode) とのコラボレーションにより、国際的な講師陣と3校の施設と業界ネットワークを活用して、運営している、の意味です。
プログラムの構成は、実は設立時に私も若干のお手伝いしたのですが、夜学を中心に、3都市で開催される集中セミナー、Eラーニング、 キャップストーン・プロジェクト(終了プロジェクト)等を通じて進められるユニークなもので、18か月で完結するように組み立てられています。教育の目的は、リーダーシップのスキルに加え、クリエイティビティ、問題解決力、文章力、コミュニケーション力、およびプレゼンテーション・スキル、の醸成です。 3都市でのセミナーの内容は、パリでは主にラグジュアリー・ブランドのマーケティング、香港ではサプライチェーンと生産、そしてニューヨークでは、経営、財務、テクノロジー、小売に中心が置かれています。パリと香港の大学の学生も、3都市でのセミナーには全員が参加し、国際性、異文化体験、人脈作り、等、キャリアに不可欠な者が身につくように組まれており、多様な講師陣、企業(現場)訪問、等による、非常に立体的なコースです。
受講資格には、3年以上の専門的経験が求められ、経験分野としては、小売、デザイン、マーケティング&マーチャンダイジング、輸出入、ファッション・ジャーナリズム、およびこれらの関連分野、とされています。
2004年に設立、今年10年目を迎えるコースですが、日本人学生はまだ一人もいないので、 FITでは、今回の奨学金を機に、日本人の応募を期待しています。
最終プロジェクトの今年のテーマは 「Mコマース」 や 「オムニチャネル・リテーリング」です。これについては次回詳細をお伝えしましょう。