2013年 3月 の投稿一覧

<FITセミナー報告① 「オムニチャネル」は 顧客中心の 全チャネル融合―店舗が鍵>

  FITセミナー第3回 「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス」は、321日 に開催されました。受講者が 170名、補助席を入れても満杯という盛況で、このテーマへの関心の高さを、改めて痛感しました。 業界の主要企業の経営者をはじめ、参加下さった皆さんに、大いなる感謝と敬意を表します。 その内容を、何回かに分けてご報告しましょう。

  第1回目は、「オムニチャネル時代とは」 を担当いただいた 大島 誠 講師のお話を紹介しましょう。 セミナーはまず、主催者である筆者からの 「セミナー企画の狙い」 の説明で始まりました。 その狙いとは、現在、モバイル (スマホやタブレット) の急速な普及と、先行企業の革新的な取り組みによって、「オムニチャネル」 が米国小売業を劇的に変えつつあること。 これに対し、日本は、大きく後れをとっており、このままでは、IT 装備の消費者の期待にこたえられないばかりでなく、アマゾンをはじめとする海外企業との競争 (日本市場での)にも、敗北しかねない、という危機感です。

  大島講師は、日本でのオムニチャネル推進の第一人者で、長年にわたって外資系 IT 企業で日本の小売・流通業のためのソリューション・スペシャリストとして活躍され、 現在、日本オラクルにて、小売業・流通業の IT 革新支援に注力して居られる方です。  講演はまず 「オムニチャネル」とは何か、その本質は? といった基本的、かつ奥深い意味合いを、 <オムニチャネルの構図> を使って説明されました。 小売業と顧客の関係が、時代とともに 「シングルチャネル(単一接点)」 から 「マルチチャネル (複数接点)」 へ。 さらに 「クロスチャネル (ネットで買って店舗で受取、などのチャネルの交差が可能)」 になり、そして 「オムニチャネル」 へと発展してきた経緯です。 「オムニチャネル」 が他と全く異なるのは、それが “シームレス(チャネル間の境目が無い” こと。 また、 “チャネル横断型の商品・顧客・販促管理”、すなわち、商品在庫の一元管理と、顧客情報(購買履歴を含む)の一元管理、また販促管理との連動、が出来るようになることです。

  大島氏が 強調した 「オムニチャネル時代の忘れてはならないキーワード」を御紹介しましょう。

    1.シームレス (業種・業態の垣根なし)

    2.神出鬼没なお客様(いつ、どこに現れるか分からない、つかめない)

    3.スマートフォーン、タブレット端末 (革新的役割)

    4.生活に密着 (Walgreen事例:“角の店”がやってくる)

    5.4Rから5Cへ = マーケティングは真の消費者・生活者視点へ

              従来のアプローチ= 4R Right Product, Price, Place, Time から                                   オムニチャネル時代= 5C (Customer, Content, Community, Commerce, Context へ

    6.リアル店舗の重要性

    7.人材 

    8.「楽しく」「わくわく」「おもてなし」 

  オムニチャネルの本質を 大島講師は、「単なる O 2 O といった、ネットとリアルの融合戦略だけではない。 『オムニチャネル』 を推進すればするほど 『リアル』 が実は重要になる。 リアル店舗は、その特性を活かす事が重要。 リアルならではの 『おもてなし』、 すなわち、いかにして来店して頂くか。 いかに楽しくショッピングをしてもらい 買って頂くか。 ということは、接客とそれに当たる人材が非常に重要」、 と強調されました。      (次回は、テッド・チャクターFIT教授の講演内容を紹介します)

<NRF(全米小売協会)大会報告⑤ 「オムニチャネル」は企業視点でなく 顧客視点>

  「オムニチャネル」は、2年前のNRF大会で初めて紹介された 「マルチチャネル 」の進化概念です。 マルチチャネル (店舗以外にカタログやインターネットなど、複数のチャネルでビジネスを行うこと) は、やがて 「クロスチャネル」 (ネット注文したものを店舗でピックアップする、などのチャネルの交差が可能) と呼ばれるものに発展しました。 そしていま、消費者が  “シームレス(つなぎ目なし)”、つまり、店舗やネット、スマホなどのチャネルの違いを意識することなく、いつでも、どこからでも、買い物が出来る環境が可能になった、 これが 「オムニチャネル」 です。

  「オムニ」 とは 「あまねく」 「全部の」 といった意味ですが、「オムニチャネル」が革命的と捉えられるようになった最大の要因は、「モバイル」(スマートフォーンやタブレット)の急速な普及です。 消費者が「モバイル」 (これは実は電話というよりコンピュータ) を 常時身に付けるようになったことで、自宅や会社のパソコンを使わなくても、ありとあらゆる「場所」から、どんな「時間」にでも、あらゆるチャネル(店舗、ネット、ソーシャル・メディア、など)にアクセスし、必要な情報検索はもとより、商品や価格の比較、フェイスブック等での他人の評価などの入手、買うかどうかの決定、購買アクションをとり、その体験をツイートする、といったことが可能になったのです。

  そして企業側は、消費者に、このシームレスで、いらつかない買い物体験を提供することが、厳しい競争に勝つ重要な戦略になりました。 

  日本では最近、 「O to O」(オンラインtoオフライン) と呼ばれる 「ネットで集客して店舗で買って頂く」 やり方が注目されています。しかし、オムニチャネルが 「O to O」 と異なる点が大きく2つあります。 第1は、「オムニチャネル」 が、ネットとリアルの融合戦略だけでなくソーシャル・メディア等も含むものであること。 第2に、(これが非常に重要なのですが) 「企業の視点」 ではなく 「顧客の視点 」 に立った仕組みであること。 つまり顧客が主体性を持って、自らそのプロセスをコントロールするものだということです。言い換えれば、これまで言われてきた「顧客視点・顧客起点」が、お題目でなく本当に消費者主導で、実現した、といえます。

 NRF大会で紹介された 「オムニチャネル」 事例

  オムニチャネルの先駆的事例としては、ラルフローレン、ノードストロムやメイシー等があげられますが、今年の大会では、ベルク百貨店の事例が紹介されました。ベルク百貨店は、米国南部16州に300店弱を展開する年商約40億ドルの老舗百貨店(非上場)ですが、百貨店業界が一般に低迷する中で自社の将来を確固たるものにする為に、大改革に取り組みました。 改革全体は、「モダ―ン文化と南部流おもてなし」を目ざして、ブランディング、大規模改装、旗艦店拡大に取り組むものですが、オムニチャネルはその重要な一環として戦略的に取り組んだものです。

  5年後に年商を60億ドルにすることを目標としたこの大改革は、そのために5年間で6億ドルを投資(うち3.6億ドルがIT関連)するものでした。売上40億ドルの百貨店が6億ドルを投じる大決断を出来たのは、自社のデータでした。それは、ネット利用のみの顧客の年間買い上げ額と、店舗のみの顧客の買い上げ額が、それぞれ100ドル、352ドルであるのに対して、ネットと店舗の両方を使う顧客は1064ドルと、店舗のみの顧客の3倍と、格段に大きいことが分かったからです。

  「オムニチャネル」への取り組みは、「デジタル・ジャーニー第3フェーズ」として行われました。因みに、第1フェーズは、ネット通販拡大(2015年には現在の3.3%を10%に)。 第2フェーズは、基本的なインフラ構築とMDシステムの再構築、でした。

  「オムニチャネル」 (第3フェーズ)実現のロードマップ(行程)は27カ月にわたるもので、そのプロセスは図に見る通りです。これは、NRF大会でベルク百貨店のトーマス・ベルクCEOが講演で使ったスライドで、 行程は5つに分かれています。 

  ① Eコマース基盤の確立――ネットビジネスの基盤整備

  ② POSの入れ替え―― 従来のレジスターをモバイルPOSに切り替える

  ③ モバイル対応の拡大―― モバイルからの受注・モバイルへの発信の体制を整える

  ④ 顧客データの統合――顧客情報の一元管理

  ⑤ 在庫の一元管理――全てのチャネル共通に在庫データが確認が出来るシステム

  行程の進捗状況は、今中間点に来たということですが、ベルクCEOはこの改革プロジェクトの大きさを 「偉大なる挑戦だ。住みながらキッチンを改装する様な事業」 と述べています。 「オムニチャネル」は、「すぐれた顧客体験」を提供するためのものですが、ベルク社は、地域のコミュニティへの貢献や、顧客エンゲイジメント(顧客に愛着を持ってもらう)のために、大学のフットボール大会 Belk Bowlの開催や、乳がん早期発見のための “マンモグラフィー・トラック” の地域巡回などにも力を入れています。 これは、オムニチャネルに直接かかわるものではありませんが、ベルク百貨店のファンづくりのため、オムニチャネルをサポートする重要な活動です。 

(次回は、FITセミナー「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス」報告)

<NRF(全米小売協会)大会報告④   「ソーシャル」 “ソーシアルノミクス” 

   キーワードの一つ、「ソーシャル」 は「ソーシャル・メディア」(日本でいうSNS)活用のことですが、これも、消費者に「仲間やコミュニティ」 といった水平に広がるネットワークを提供し、コミュニケーション手法を劇的に変えたという点で、『革命』の中核をなすものといえるでしょう。 

   「ソーシャル・メディア」 は、コミュニケーションを 「一人から一人への伝達」 から、一挙に多数に、また瞬時に、世界へ向けてでも伝達されるものにしたのです。 いわゆる 「口コミ」  を英語ではWord of Mouth といいますが、「ソーシャル」は、World of Mouth、いわば 「世界コミ」  だ、と、『ソーシアルノミクス』 の著者、エリック・クアルマン氏はいいます。 Socialnomics とはSocial Economicsの合体語で 「ソーシャル経済」といった意味です。 世の中は革命的に変わっている。 新しい経済社会がうまれている、というのです。  「メルアドはもう古い(SNSの方が向いている)と考える若者が増え、米国では大学入学時に、これまで恒例であった各学生にEメールアドレス支給することを止める大学も出てきた。 Fortune  500と言われる米国の大企業も、その 40% 10 年後には消滅 (あるいは名前が消えている)。 ソーシャル・メディアは企業のとっても不可欠になってきている。」 ソーシャル・メディアの ROI (投下資本利益率) は、「5年後にあなたの会社が生き残っているかどうかだ」 と彼は言います。

  ソーシャル・メディアの急速な浸透を後押しするのが、モバイル(スマホやタブレット)です。 モバイルを寝る時も離さない米国人は44%に達しているとのデータがあります。「モバイル」が、いわば 「消費者の情報と行動力装備」 の手段となっているのです。

  モバイルは、人々に、自律的、自働的に動くためのパワーを与えました。「消費者は王様」などと言われてきましたが、今や彼らは単なる顧客ではなく CEC Chief Executive Customer=最高責任者である顧客)になった、と IBM 社 は膨大な消費者調査を基に、説明します。彼らは知的で洗練されており、企業に透明性を求め、企業はこれに対応できなければ、見はなされるのです。

  ソーシャル・メディアで売上アップを図ろうとする企業は多いのですが、販売よりは「リスニング(聴く)」手段と考えるほうが有効だとクアルマン氏は強調します。人々の「つぶやき」情報の量は、ツイッターだけで1日に12テラバイトに上るそうです。これらを分析し自社に関する「つぶやき」を経営者が把握する事が不可欠。しかしフォーチュン500 社でも、90%の企業が出来ていないといいます。

  “ショールーミング”(店舗を展示場や情報集めの場として使うこと)が問題視されていますが、これは現代の消費行動であり、変えることは出来ない。IBM は、ショールーマーの半分以上が 良いコメントを発信してくれたり、アドボケイター(推奨者)あるいはインフルエンサーである場合が多いから、大事にすべきだとしています。

  ソーシャル・メディアの効果の大きさを見る事例として紹介されたものの中でも、ユナイテッド航空の事例は、古典的とも言えるものです。 それは、演奏旅行に出向くミュージシャンが、飛行機の窓から自分のギターが投げ渡しで積み込まれている光景を見て憤慨し、到着地のカウンター壊れたギターについてクレームをしたのですが埒が明かず、その後の同社の対応にも誠意が見られなかったため、彼はUnited Breaks My Guitarという弾き語りビデオを制作してユーチューブにアップ。 それが人々の共感を呼び、ビデオ視聴は140万回を超え、同社のイメージは大きく損なわれる結果になりました。他方、その弾き語りの歌で「テイラー製」と名前を出してもらったギターの製造会社は、即、ミュージシャンに同社のギターを贈り、その話がまた話題を増幅したのです。

 ソーシャル・メディアは、ブランディングや顧客の信頼作りのすぐれた手段でありますが、非常に手ごわい手段でもあります。これからの企業はその活用法を身につけねばなりません。 来る3月21日には、FITセミナー「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス--ブランディングと顧客エンゲイジを成功させるソーシャル・メディア活用法を開催します。  (次回は、オムニチャネルについて書きます。)