ワービー・パーカー ( Warby Parker) は 眼鏡のネット販売の会社で、オムニチャネルの好事例の一つとして FITセミナーで紹介された 4社 のひとつでした。 今年年始めにニューヨークで開催された NRF 大会(全米小売業協会)でも、ユニークな起業事例として、創業者の一人、ニール・ブルメンサル氏が講演し、私も非常に感銘を受けた企業です。
この事例が非常に注目される理由は、① ネット販売で、度入りの高品質メガネを、安く提供する事、② ソーシャル・メディアをフル活用している事、③ 顧客のニーズと利便性を基本に考えた、顧客セントリックのビジネスである事、すなわち、まさしくオムニチャネル(それを特に強調することも無く)を実行している事、そして、④ 社会への貢献(貧しくてメガネが買えない人にメガネを贈る)、をやっていること、です。
起業したのは、4人 の大学生(ペンシルバニア大学ウォートン校)。きっかけは、メガネが高すぎる、との問題意識でした。友人が 700ドルで買ったメガネを紛失し、新しいメガネを買うお金が無いのを見て、「なぜメガネはこんなに高いのか? メガネが iPhone より高いなんて信じられない!」 と義憤に駆られ、眼鏡の製造プロセスや中間業者の存在や、あるいはデザイナーブランド等へのライセンス料を勉強しました。そして、生産やマーケティング手法を抜本的に改革し、中間業者も排除して、95ドルで Prescription Glasses (処方箋通りのレンズを入れる、いわゆる度入りのメガネ )を販売するビジネスを立ち上げたのです。もちろん店舗を持つ経費も人手もないので、当初は、自分たちのアパートを使ってのネット販売でした。
「ネットで」、しかも「度入りのメガネを売る」という前例のないビジネスを、どうしたらうまくやれるか? 色々考えた彼らは、ホームページとソーシャル・メディアのフル活用、ユニークなマーケティング手法をとりました。最初のコマーシャル・ビデオも、YouTube の非常にユーモラスで楽しいものを、ホームページにあげました。また、フレームのお試しキット(5種類、5日間、無料)というアイディアを実行し、大きな支持を得たのです。米国でもトップのビジネススクールの学生ですから、優れた知恵を駆使するのは当然かもしれませんが、ビジネスのコンセプトも、「ブティック感覚と品質の、伝統的工芸品的なメガネを革命的価格で売る」というものです。 ソーシャル・メディア(フェイスブック、ツイッターなど)は、ブランディングと顧客エンゲイジのツールとして活用しています。たとえば、メガネかけた自分の写真をフェースブック・ページにアップし、どのメガネが一番似合うかのフィードバックを貰えるようにしました。メガネを選ぶのはとても個人的な買い物で、だれでも他人の意見を聞きたいものだからです。 (画像は FITセミナーでチャクター講師が紹介したもの)
フェースブックのウォールには誰でもポストでき、会社はポストをした顧客全員とコンタクトをし、すべての質問に対して解答を提供する、という丁寧な取り組みをしました。 また、会社がどのような考えで、何を、なぜしているのか、も詳細にわたってシェアしました。 その中には、同社の社会貢献活動である、「Buy a Pair, Give a Pair」 ( ひとつ買って頂ければ、ひとつを寄付します) は、「メガネが必要なのにもかかわらず、貧しくて買えない人が、世界に10億人いる。この人たちにメガネを上げよう」も入っています。
その結果、創業 2年で急成長をとげました。まだビジネスの規模は大きいとは言えませんが、大きな期待が寄せられている会社です。売上の 50% 以上は口コミによるものだそうですが、店舗もこれまでの、ポップアップ(期間限定の臨時ショップ)ではなく、先月、ソーホーに常設のショップを開店しました。今後、店舗を広げたいとの意向です。ネットオンリーで開業した同社が、店舗展開に踏み切るのを見ても、オムニチャネルの重要性と、それを顧客が支持している事が、読み取れます。オムニチャネルを使って、こんなビジネスが始められる、というのも、これからの時代ですね。
<次回のFITセミナー報告は、「オムニチャネルは 企業の目的を明確にして始める」です。>