2013年 5月 の投稿一覧

<FITセミナー報告⑧ チャクター氏の結論-「違いを生み出すマーケッターの行動」>

  FITセミナー「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス」の報告のまとめとして、チャクター教授が最後に強調した「違いを生み出すマーケッターの行動」を紹介しましょう。

  「オムニチャネル時代の到来」を説くまでもなく、小売ビジネスの環境は激変しています。モバイル(携帯端末)の普及と日常生活への浸透は、Eコマースに巨大な影響をもたらすでしょう。モバイルは、「リアル店舗での買い物体験の 絶対的なゲーム・チェンジャー(変革を起こす力)となる」とチャクター氏は強調します。なぜなら、顧客は、店頭でモバイルの技術力を利用することで、従来では考えられなかった主体的な情報収集、判断、行動を起こし、自らの買い物体験を創造するからです。

  このような変化の中で、マーケッターが「他社との違いを生み出す」ために必要なことは何でしょうか? チャクター教授が下記を上げました。

 1.Rethink―― もう一度、“つながる消費者” の意味を考えよう。――“つながる”の最大の意味は、消費者同士が繋がり互いにインタラクトしながら大きなパワーになること、だと私は考えますが、それが脅威にも、チャンスにもなり得る、ということを肝に銘じることが重要です。また企業あるいはブランドは、顧客(消費者)との繋がり(単なる関係だけではなく、エンゲイジメント)を醸成せねばなりません。

 2.採用は“アティテュード(態度・姿勢)”をもとに行い、スキル(技術)はトレーニングで習得させる――スタッフの採用は、スキル優先ではなく、顧客に快適な買い物をしてもらうために出来ることをすべてする、といった姿勢の持ち主を雇え、の意味です。

 3.フェースブックの “いいね”は 許可=会話を始めることの許可と考えよ。――“いいね(Like)”を数多く獲得することだけでは、大きなことは起こせません。それを起点に顧客との会話を深めてゆく事が大切です。

 4.誰にサービスを提供しているかを忘れないこと。顧客を知ること。質問をし、リサーチをし、新たなプロモーションを試す。――ターゲットを明確に、あるいは再確認するために、双方向のコミュニケーションが有効です。

 5.従来の路線から踏み出すことを恐れるな。ただし、モニターをし、反応の分析を忘れないこと。――ソーシャル・メディア、オムニチャネルは、これまでの顧客マーケティングの概念を大幅に逸脱するものであり、まだ緒についたばかりです。新たな試みに挑戦することなしに成功する、とくに一般論でなく自社にフィットする方策をみつけることは、難しいでしょう。

 6.革新的な考えを受け入れよ。ただし、Eメール、検索、ターゲット・マーケティングなどの基本を忘れてはならない――

  以上、8回にわたって、FITセミナー第3弾「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス――ブランディングと顧客エンゲイジを成功させるソーシャル・メディア活用法」から、私の印象に残ったポイントを御紹介してきました。

 次回は、私自身の「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス」についての考えを述べ、まとめにしたいと思います。

<FITセミナー報告 ⑦  「オムニチャネル」をモニターするための 重要業績指標>

  オムニチャネルに取り組む際には、有効なソーシャル・メディアを選ぶことが重要です。選択は、自社のオムニチャネル戦略目標との兼ね合いで行わねばなりません。それぞれのソーシャル・メディアの特徴については、先回述べました。

(FITセミナー風景と講演するチャクター教授)

  今回は、オムニチャネルの実施に当たって重要となる、消費者行動とモニタリングについて書きます。消費者行動の理解については、どのソーシャル・メディアが利用されているか、どのデバイス(パソコンか、スマートフォーンか、タブレットか、など)、ショールーミングによる購入の度合い(製品のタイプにより異なる)、ホームページへの来訪者がどこから来ているか、などを、把握することが重要です。 ソーシャル・メディアをモニターするためのツールは、「御社のホームページへの来訪者をモニター、確認、分類をする」ことと、「ソーシャル・ネットワークで御社を話題にしている潜在的顧客の抽出を可能にする」事に貢献する、とチャクター教授は言います。ここで活用されるのは「ソーシャル・ダッシュボード」です。「ダッシュボード」とは、複数の情報源からデータを集め、概要をまとめて一覧表示する機能や画面、ソフトウェアのことですが、膨大なデータを、目的に応じて、分かりやすく見やすく提示することは、顧客のモニタリングに非常に有効だからです。

  また、重要な業績指標として チャクター教授は、下記の 5 点を挙げています。重要業績指標とは、いわゆる KPI Key Performance Indicator )と呼ばれるもので、下記のために有効です。

  • 企業のゴール(目標)へ向けた進捗状況を明らかにし、数量化できる手法。
  • 経営者が現在の状況を迅速に把握し、速やかに行動をおこせるように、 複雑な要素を一つの指標であらわす。
  • 対策として行動をとれる(ものでなければならない)。

  重要業績指標として重要な 5 点は、次の通りです。

 ① コンバージョン率―― 来訪者に対しての購買客の割合。単純に来訪者に対するコンバージョン率を追跡するのではなく、どのプロモーションが効果的だったかを知るためにキャンペーンごとに追跡する必要がある。

 ② 平均受注額―― 受注に対する収入の割合。平均受注額は利益率に影響する。よって、顧客により高価な商品を買ってもらうよう、また、1アイテム以上買ってもらえるように誘い込む必要がある。

 ③ ビジット・バリュー ―― すべてのビジット(サイト訪問)に対する利益の割合。これは、御社のホームページに適切なトラフィックをどれだけ導いているかを計る意味で、非常に重要なベンチマークである。

 ④ 顧客のロイアリティ―― 新規顧客の既存顧客に対する割合。顧客が御社のホームページを一度きりの購入目的としてとらえているのか、忠実な顧客なのか、を認識する事は重要である。

 ⑤ 検索エンジンからの照会――業界の平均に対する、検索エンジン(グーグル、ビング)からの照会の割合。有料の検索キャンペーンのコンバージョン率の追求にも使用されるべき。

  以上の重要業績指標を、常時、把握することです。

(次回は、チャクター氏が結論としてまとめた「違いを生み出すマーケッターの行動」について書きます。)

<FITセミナー報告 ⑥  「オムニチャネル」 は 企業の目的を明確にして始める>

  先回は、オムニチャネルに取り組む米国の企業事例として、メイシー百貨店とメガネのワービー・パーカー社を紹介しました。   それでは、オムニチャネルに取り組むに当たって、どのようなことが重要になるのでしょうか?  まずは企業の目的を明確にすること。そして、御社に有効なソーシャル・メディアを選ぶことだと チャクター氏は強調しました。

  オムニチャネルへの移行の目的は、言うまでもなく「顧客の買い物体験を より快適で楽しめるものにする」ことにあり、その結果、企業も「売上と利益。とくに顧客エンゲイジメント」を確かなものにする事にあります。

  しかし、オムニチャネルが、「あらゆるチャネル」、「顧客から見て360度の視野」を意味するからと言って、あらゆるチャネルに取り組まねばならないということはありません。企業のオムニチャネル化の目標にもとづき、どのようなツール(チャネルの選択と、顧客とのエンゲイジメントを深めるための関連施策)を使うか、は、各企業が決めねばならないことです。もちろん、資源(資金や人材)の制約もあります。特にソーシャル・メディアに関しては、それぞれのメディアの特徴を把握し、自社にとって、あるいは自社がやろうとしている事、すなわち戦略にとって、より適切なものを選択する必要があります。図は、米国のマーケッターが選択したソーシャル・メディアを、多い順に表したものです。  最も多く利用されている順にあげると、 Facebook ( 82.4 %)、②Youtube ( 41.9% )、③Twitter ( 36.5% ) 、となっています。  (2012年 出所:emarketer.com )

   主なソーシャル・メディアの特徴について、チャクター教授の講義からご紹介しましょう。

  Facebook =ブランドの露出という点では、ブランド・ページの効果は大。顧客とのコミュニケーションの面では、ファンの引き込み、懸賞やコンテストなど、繋がるために最適。集客面では、シェアボタンでのページへの誘導は可能だが 多数のクリックは期待できない

  LinkedIn =露出という面では、個人としてのブランディング、および会社の長所の提示には 効果的。知名度強化のために、社員にプロフィール作成を推奨すべし。顧客とのコミュニケーションは、第一義的目的ではない( BtoB が中心のソーシャル・メディアのため) が、業界関連質問への解答を通して顧客とつながることは可能。ホームページへの集客は、不可能ではないが、あまり期待できない

   Twitter =露出面では、ホームページとの統合やクチコミ的に顧客と繋がる独特なチャンスを提供。 ブランドを目立たせる効果は大。 顧客とのコミュニケーション面では、会話も可能だが、ソーシャル・メディア・ダッシュボードを利用し、キーワード検索で、人が喋っていることを確認するのが効果的

  YouTube= 露出面では、面白い内容のビデオでプロモート出来れば、ウェブ上で最もパワフルなブランディングのツールとなる。顧客とのコミュニケーションの面では、楽しませ、情報を与える、あるいはブランドの提示が目的であれば、ビデオは早急に顧客をひきこむチャネルである。 集客面では、トラフィックはビデオへ繋がる。トラフィックをホームページへ戻したければ、リンクが必要。通常はビデオを見た人の数の方がホームページへの来訪者よりかなり多い。

  (次回は「オムニチャネル」をモニターするための KPI (重要経営指標)について書きます。)