2014年 3月 の投稿一覧

<NRF(米国小売業)大会2014 報告⑦―“パーソナル化”で忠誠顧客を創るセフォラ>

 先回、小売ビジネスがモバイルの浸透により大きく変わりつつあること、とくに顧客に対する“パーソナル(個人的)” なコミュニケーションが重要になっている事について、書きました。

  今回のNRFでは、パーソナル化に関するセッションがいくつもありましたが、その中から、セフォラ(Sephora)に関するものを御紹介しましょう。“ The  Power Couple: Loyalty and Mobile ”( 「ロイアリティとモバイルの力強いカップル」 )と題するセッションで、モバイルのパーソナル化アプリを活用して、ロイヤル顧客の構築に成功している事例の紹介です。

  (画像はセフォラの店舗:NRF提供)

  セフォラは、1970年にフランスで生まれた化粧品の会社ですが、ユニークで美しい開架式のディスプレイから、販売員の手を借りずに自分で、また自分のペースで商品の試用や選択が出来る方式が特徴です。現在はLVMH(ルイビトン・グループ)の傘下にあることから、ラグジュアリー小売業として、Sephoraの自社ブランドのみならず、世界のトップブランドのスキンケア、カラ―、香水、ヘアケア、などを多彩にそろえています。またブランド別ではなく、カテゴリーでくくった提示もユニークです。ネット販売の Sephora.com 米国で1999年にスタートしていますが、米国とカナダを合わせた売上は、現在“北米店舗”325店の中で最大となっているといいます。

 (モバイルの画面に使いやすいアイコン)

  セフォラのモバイルを活用したパーソナル化は、2 つのプログラムで、抜きんでています。

  第 1 は、「カラーIQ 」システムです。これは、店舗で自分の肌の色をスキャンで調べてもらい、その肌色番号をもとにファンデーション一覧が提示される仕組みです。色々なブランドのファンデーションを値段や人気度等とともに比較しながら選べるのは、まさしく顧客セントリック(顧客の立場に立った仕組み)です。また口紅の色なども、以前に買ったものを購買履歴からすぐに見つけることが出来、非常に便利です。

  2 に、魅力的なロイアリティ・プログラム“ビューティ・インサイダー”があります。買上げレベルにより、3 つの段階、一般の顧客はBeauty Insider350ドル以上のお買い上げ客はVIB1000ドル以上がVIB Rouge、と分かれており、コンテンツもそれぞれ違っています。

  化粧品売り場で、ブランド販売員の強烈な売り込みに辟易している顧客が多いのは米国も同じです。販売スタッフの視線を避けながら、ではなく、自由に商品を吟味したり比較し自分流の買物や楽しみが経験出来る。そのために、モバイルと使いやすいアプリが重要なのです。またそれによって、店舗でも、モバイルでも同じ体験ができる、しかもそれがパーソナルな体験だという、まさしくオムニチャネルになるのです。

  パーソナル化とは、顧客が「私の事を考えてコミュニケーションしてくれている」と受け止めることです。誰にでも同じ案内をしている事が明白なものには、人は興味を持ちません。小さなことでも、例えば、始めての来店(来サイト)客に提示するのは「ベストセラー商品」、しかし既に顧客になっている人には「新商品」を、という対応をしていると、先回紹介したコルビー氏は言っていました。

  コルビー氏によれば、「パーソナル化」とは、「データを活用する事により、顧客のニーズ(表明されている、いないに限らず)を正確に反映する、「即 行動可能な」( Actionable , 「タイミングよい」( Timely)そして「その人に意味のある」( Relevant な体験を、すべてのタッチポイントでとどけること」だといいます。ここで特に重要な事は、そのメッセージや商品やサービスが、「レラバント(その人に意味がある、その人のニーズや考え方に合っている)」であることです。

 また「パーソナル化」は、1 回限りのものやアイディアではなく、顧客とのインタラクションと顧客体験を継続的にクリエートすることにより、顧客に“スマート”(賢くかっこいい)と感じさせることであり、そういった考え方(フィロソフィ=哲学)だとも彼は言います。

 いよいよビッグデータの活用の時代に入って、これから驚かされる事が多い時代が来るでしょう。『魔法の瞬間』、という言葉がNRF2014大会では、飛び交っていました。スカンジナビア航空の社長ヤンカールソン氏の著作のタイトル真実の瞬間』、にヒントを得た言葉だと思いますが、まさしく『顧客の心に かちっと はまる』瞬間があるのです。

  米国有数の大型小売業ターゲットが、データマイニングによって妊娠していると察知した女性顧客に対して、関連商品の案内を送った事例が話題を呼びました。本人が、「まだ誰にも話していないのに」と驚いた、というのです。彼女が買っているもの(ビタミン剤なども含め)と集めているクーポンによって、妊娠が分かったといいます。

 パーソナル化には、難しい問題がある事は言うまでもありません。個人情報を、どこまで収集する事が許されるのか、またそれを使ってどこまで働きかけが出来るのか? しかしセミナーでは、米国のある調査によれば、85%の人が「より良い経験が得られるならば、提供する」と言っていることも紹介されました。

<NRF(米国小売業)大会2014報告⑥―“パーソナル化”で顧客の感動と信頼を得る>

 『パーソナル化』も今年のNRF大会で、多く取り上げられたテーマでした。『パーソナル化』と言えば、これまでは、個人の好みや体型に合わせてカスタム・メードの製品を作るとか、名入れをするとか、あるいはアマゾンなどが、「あなたへの“お勧め”があります」と、購買履歴の分析にもとづいた提案メールを送ってくる、といった事が一般的でした。

 しかしテクノロジーの発達により、ビッグデータの分析が可能になり、他方、モバイルの普及により、生活者が、小型スクリーンで見やすいシンプルな表示や即アクション可能なメッセージを要求するようになって、パーソナル化もあらたなステージに入りつつあります。

 NRF大会での“The Future of Personalization : Making Science Look like Magic” セッション、訳せば「パーソナル化の未来=サイエンスを魔法のように」、を紹介しましょう。講師は、Facebookのニコラス・フランシェット氏(小売/Eコマース責任者)、のほか、Cornerstone Brands社(アパレル・ホームの 7 ブランド、Guilt Group、Garnet Hillsなど)のブライオン・コルビー氏(SVP)、Styliticsのザック・デイビス氏(共同創業者・CMO)、Joss and Main(インテリアのネット販売)のジョン・マリキン氏(共同創業者)です。

(プレゼンするコルビー氏と他の講師陣: NRF提供

 Facebookのフランシェットは、小売におけるパーソナル化を加速している トレンドとして、次の3点を挙げました。

  1. 発見(Discovery――人は、“欲しいものを買う”だけではない。期待していなかったものを発見して買うのだ。小売業は、「適切な商品」を、「適切な人」に、「適切なタイミング」で提示し、ブラウズ(見ること)をしてもらい、新たな“発見”体験になるよう注力している

  2.シーズン性(Seasonality――小売業は、諸データをこれまでとは違うやり方で切り刻みながら、「その瞬間」にふさわしい、顧客に意味ある提案をする。たとえばWendy’sがその町の天候にふさわしいサンドイッチを作る、など。

  3.圧縮(Compression――モバイルが全てを変えている。ビジネスが圧縮されているのだ。小売業は、かつての、大きな店で販売をするのが当たり前の時代から、パソコンでネット販売をする時代になり、いまやモバイルという、画面も小さく顧客を捉えるチャンスが限られている手段でビジネスをする時代に入った。

 ホーム関連商品のネット販売会社Joss and Mainマリキン氏は、自社の“パーソナル化”がいかに大変な活動か、を紹介。日に7~10種類の“キューレイト(テーマをもって編集)したストーリー”を作り、日に2万1000通りの異なるEメールを発信し、ホームページのバリエーションも3000万に及ぶと述べました。 作業は巨大。こんなことは誰にも出来ることではない。では、どこから、どのようにスタートしたらよいのか?

 パネラー達の答は、「まず、自社が最も大事にしているターゲットから始めよ」 でした。 マリキン氏自身も、「私自身、革命的な発見をした。ターゲット顧客に、過去のデータから、“ブライト色” と “ニュートラル色” のいずれかを提示する、という単純な事が、大きな効果を挙げた」 と語っています。 そして、 「パーソナル化は、顧客のための 『魔法の瞬間の創造』 」。優れたパーソナル・ショッパーが、顧客に、手持ちのものを補完する、ぴったりの商品を勧めるのと同じ。自分が持っていないものを提案された時の “喜び” と “発見” を提供するものだ。 パーソナル化は、科学ではなく、マジック (魔法) で感動させる(インプレス)こと」 とのべました。

 (次回は、パーソナル化でロイヤル顧客を取りこんでいる、セフォラ等のケースを紹介します。)

<NRF(米国小売業)大会2014 報告⑤― “リアル” の感動を “デジタル” が支える>

  過去4回でご紹介したように、今年のNRFのメッセージは、「人びとは、テクノロジーが進めば進むほど、また簡便なネット購買が浸透するほど、『人対人』、の交流、楽しい会話や感動的な体験を求めている」というものでした。
  「“リアル”の感動を“デジタル”が支える」 は、2月26日に繊研新聞に掲載された私のNRFリポートの大見出しです。 (記事は右記で覧ください。)NRF2014リポート尾原寄稿 繊研新聞2014.2.26掲載
  小売業、特に私たちのようにファッションに関わる人たちは、インターネットで商品を購入する、という事には当初は懐疑的でした。「ファッションは、触って素材を確かめ、色も実際の色を見、フィットは試着しなければ、分からない。ネットなどでは買えないものだ」という思いが、ついこの間まで一般的でした。しかしここ5年ほどの間に、米国ではファッション商品(アパレルや雑貨)のネット比率が急速に高まりました。(日本でもその傾向が強まっています。)それでも多くの米国の店持ち小売業は、『テクノロジー』 に対して、四つに取り組むところまでは行かない距離感を持っていたのです。
  ところが、興味深い記事が、2月4日号のアドバタイジング・エイジ誌(Advertising Age)に掲載されました。それによれば、
  「小売業は、学びの結果、テクノロジーを恐れることをやめ、活用・愛用するようになった。Showrooming も、モバイルで試着をするアプリ開発も、身体に合う靴やシャツを見つけるためのボディスキャンも、お買い得ディールやデジタル財布での支払い、等にも対応中である。今や小売業が目指しているのは 『オンラインの利便性に匹敵する店内での体験』 である。」
  つまりこれからの小売企業は、自社に適切な全てのテクノロジーを積極的に活用し、『顧客の体験』 を優れたものにしなければ、競争には生き残れない、ということなのです。
  『アマゾンはハグ出来ない』 という言葉も、あるセッションで強調された言葉ですが、NRF参加者に強烈なインパクトを与えました。
  『リアルのビジネスや生活を効率化するのがテクノロジー』 とジャック・ドーシーは言いました。彼の「消費者が関わるテクノロジーは、『懸命に取り組む』 ようなものではなく、電気のように『インビシブル=目に見えないもの』 であるべし。停電して初めて電気への依存度が分かるように、気付かれないうちに人々の生活やビジネスを支援すべきものだ」との発言は、まさしくこれからの、「 “リアル” の感動を “デジタル” が支える」時代を象徴するものと感じました。