今年のNRF大会で大きな反響があったのが、「Life is Good(人生はいいものだ)」の大型セッションでした。Life is Good社の創業者、バート・ジェイコブス氏が講師で、テーマは楽観主義」、「思いやり」、「喜び」――適切なマインドを売ることが、いかにブランドを成長させるか”です。 Life is Goodは、まさしく未来を示唆する「ソーシャル・ビジネス」を実践する事例と言えます。ビジネスが、「金儲け」だけではなく、「社会のためになる、人のためになる、人がそれにより成長し幸せになる」 ものでなければならない、という同社の考え方は、すでに2012年のNRF大会以来、“Conscious Capitalism=意識ある資本主義” 等のテーマで、ホールフーズ (オーガニック食材を扱うグロサリー小売業) やスターバックスの創業者が、熱っぽく語った新しい企業理念、 “ソーシャル(社会的役割)”重視です。

 Life is Good Company は、バートとジョンという2人のジェイコブス兄弟がスタートした 「アパレルやアクセサリーの販売で、前向き思考を推進する」 会社です。売上は1億ドルを越え、利益の10% を恵まれない人達のために寄付をしています。

(画像は同社のアイコンであるJakeのスマイル」 Original Jake drawing

 このビジネス・コンセプトが生まれたきっかけには、非常に興味深いものがあります。バート・ジェイコブス氏は、Villanova University 1987年に卒業。その2年後に、Tシャツをトラックで巡回販売する会社をスタートしましたが、なかなかうまく行かない。 そして疲れ果てながら、弟のジョンと、「なぜ、メディアは、うまくいってない事だけを取り上げ、うまくいっている事は取り上げないのか? そのネガティブ(否定的)エネルギーの影響はどのようなものなのか?」  さらに「ポジティブ(肯定的・前向き)なエネルギーだけを伝播するブランドをクリエ-ト出来ないものか?」 と考えました。その時、部屋の壁に貼ってあった 「Jakeのスマイル」のイラストに心を打たれ、ひらめきを得たといいます。その結果、ビジネスの経験もないまま、たった78ドルの資金で、Life is Good3語を、絵心のある弟が描いたTシャツを売り始めといいます。 

 「Jakeのスマイル」―人にいい気分を伝播するスマイルのイラスト-が、Life is Goodのアイコンです。そして、ユニークなイベントで各地を巡回しながら、それぞれの土地で趣旨に賛同するボランティアを巻き込み、多くの人を動員し、メッセージの伝播と、ファンド・レイジング(寄付金集め)を成功させているのです。

 ファンド・レイジングのイベントで最も話題になったものに、2006年ボストン・コモンでの「かぼちゃ彫刻」があります。一か所に集められたかぼちゃの数で、ギネスの世界記録を更新し、10万ドルを集めたとのことです。

 Tシャツに書かれたメッセージの例をあげましょう。「子供は偉大なる楽観論者」 「楽観的でなければ、革新的な事は出来ない」 「良い価値観は伝染する」 「一人では出来ないStick Together!(みんなくっつけ)」 「簡素化せよ!」 「祝福せよ。Celebrate!」 「仕事と遊びの境界線を消せ!」。メッセージはすべて、前向きで楽天的、楽しくなる、元気が出る、といった人の生き方の示唆に富むものです。

中でも私が特に気に入っているものは、「テイクする者は、“食” には困らないかも。しかし、“ギブ”する者は、よく寝られる。」、、、素晴らしいメッセージですよね。(画像参照)

 Life is Good の社会貢献は、彼らの信条、すなわち「子供が、究極のインスピレーション源」 にもとづき、子供を対象に行われています。全国のフェスティバル・イベントで生みだした資金の100%、また Life is Good の商品の販売で得た利益の100%をハンディキャップのある子供の基金に提供されているのす。 最近では、この考え方に賛同する企業との連携も拡大し、コーヒーチェーン(Sumacker’s)やHallmark(カード・文房具)もグループに入りました。

 バート・ジェイコブスCEOは、自らを、CEO=Chief Executive Optimist(楽観主義最高責任者)と呼び、“Optimism can take you anywhere.”(楽観主義が、あなたを望む場所に導く) をスローガンに、全てクチコミ、広告なしで4500の小売業、30カ国への販売を推進しています。

 NRF大会で彼は強調しました。

  「子供は楽天的。“悲観的な人”が、革新的になったり、殻を打ち破る事は出来ない!」

そして、1000人を超える聴衆に対して、講演の間、強調したいメッセージがあるたびに、“○○はスーパーパワー! 高く飛ばせ!” と大声で唱え、フリスビーを客席の最後部へ向けて投げるのです。 それを聴衆が飛び上がってわれがちに捕まようとする光景は、感動的でした。 たとえば、

   Fun is SUPER POWER!  Let it fly! (楽しい事は、スーパーパワー! 高く飛ばせ!)

   Love is SUPER POWER!  Let it fly! (愛は、スーパーパワー! 高く飛ばせ!)

   Courage is SUPER POWER!  Let it fly! (勇気は、スーパーパワー! 高く飛ばせ!)

  「“物を売る” のが小売業であった時代は終わった――小売は、エンタテイメントであり、教育であり、社会的役割をもっている。」 のジェイコブ氏のメッセージは、まさしく小売ビジネスの新しい時代の到来を、告げるもの、と感銘を深くしました。