2015年 2月 の投稿一覧

<NRF 2015レポート ③――ミレニアル世代の 新ラグジュアリー市場とは?>

  第140 回目のNRF(全米小売業協会)大会は、久しぶりに好調といえるホリディ商戦をふまえて、前向きムードで開催されました。 しかし課題 は山積。大会の総括をしたWWDの記事は、「天気予報は曇のある晴れ」 と報道しています。特に変容する消費者の問題を取り上げるセッションは、数多くありました。

 なかでも「ミレニアル世代」と呼ばれる、1535歳の世代。ネットやソーシャル・メディアの普及の中で育った彼らは、これまでの消費者とは全く異なるものを持っています。

 彼らが「ブランド」や「ラグジュアリー」について、どんな考えをもっているのか? NRF 初日の “The Changing World of Luxury” は、非常に示唆に富んでいました。 講師は、ビッグデータ調査で小売業を支援するRichRelevance社トップのデイビッド・セリンジャー氏、バーニーズ・ニューヨークのEVPマシュー・ウールセイ氏です。

(画像は3人のパネル・ディスカッション風景) 

  「今日のラグジュアリー顧客は、テイスト面・価値観ともに多彩で、単純な定義はもはや不可能。とくにミレニアル世代は、新しいラグジュアリー市場のフロンティアだ。パーソナルな製品やサービスを要求する彼らを捉えるにはビッグデータやテクノロジーが不可欠。これを“顧客セントリック”で行えば、“製品セントリック”のアマゾンにも対抗できる」 というのが、「変化するラグジュアリーの世界」セミナーのメッセージでした。  「ミレニアル世代が大変動を起こしている。彼らはブランドではなくクオリティ、職人技(クラフツマンシップ)、そしてオーセンティック(真正・正統派・ほんもの)、信頼性を求める。ラグジュアリーとは、どこで、どのように作られたかだ。」というのです。

 レニアル世代は、年齢が若くて高学歴。テクノロジーに習熟していて、平均より高収入な、複雑かつマルチタスクの生活者。HENRY high-earner not rich yet=高収入だがまだリッチではない)とも呼ばれるている彼らは、キャッシュフローは大きくても財の所有には関心がないといいます。自動車も 50% 以上がリース。Uber Rent the Runway  などレンタルも活用。ハンドバッグを買うのでも、まずブランドに行くのではなく、こんな機能のバッグが欲しい、スマホで検索し、マーク・ジェイコブスからニッチのローフラー・ランドルまで幅広くブラウズする。つまり従来のラグジュアリー顧客とは違う、かってない厳しい顧客だといいます。

 彼らにとってのラグジュアリーとは、発見ストーリー”。 発見を可能にするのは、語りのコピー、パーソナル化した製品、パーソナル化したサーチ(検索)です。ビッグデータは隠れた情報を見つけるツールとして重要で、たとえば顧客の要求が、特定モデルの車ではなく「子供を乗せられる車」 だと把握・認識出来るからです。 ミレニアル顧客は 「ファンクショナル・ラグジュアリー」を重視します。米国でのSNS会話を分析した調査では、ラグジュアリー・ブランドのトップに iPhone が踊り出ました。

 Story Tellingも重要です。 顧客の関心に合わせた歴史的物語を テクノロジー活用で魅力的に提供することが出来ます。バーニーズでは、個客にパーソナル化したサイト検索を提供したり、インテル社とコラボして、ラグジュアリー・スマートウォッチを開発しているとの報告もありました。

 2015 年は、ビッグデータを戦略的に活用する最初の年になる、と講師陣は強調していました。

 

<NRF 2015レポート ②――Flux ゼネレーションが カオスの時代をリードする>

 今年のNRF (全米小売業大会)で、日本のこれからにとって、最も重要だと思ったセッションを御紹介します。

 FastCompanyという、アントレプレナー(起業家)あるいはイノベーションを志向する人が好んで読むビジネス誌があります。その編集長で最高業務責任者も務めるロバート・サフィアン氏が、破壊的な変化が起こっている今、新しい人材像「フラックス・ゼネレーション」が強く求められている、と講演しました。

(Flux ゼネレーションを特集した FastCompany 誌 の表紙) 

 実はこの特集は2012年2月号に掲載されたのですが、その時点で私は目から鱗の強烈なインパクトを受けました。それが2年以上を経て、今年のNRF大会の8つの基調講演の一つに選ばれた事で、 私の先見性をちょっとばかり、誇らしくも思っています。(!)

 サフィアン氏は言います。 「今はカオスの時代。何時何が起こるか全く予想できない混沌の世界だ。これまでのビジネス法則が役に立たないばかりか、超スピードで変わる環境に対応せねばならない。 創造性の爆発が巨大な選択肢を生んでいる現在の世界で成功するには、新しいタイプのリーダーが必要だ。フレキシブルでアジャイル(聡明で素早い)、過去に例の無い新しい事を始めることを躊躇しない人材だ」。

 Flux ゼネレーションは、1990年代後半にFastCompany誌がスタートして以来、時代を革新した起業家、Appleのスティーブ・ジョブスやAmazonのジョセフ・ベゾス、あるいはFacebookのマーク・ザッカーバーグ等をインタビューしてきた経験を通じて、彼らの共通項から見た新しい人材像です。

 Flux(フラックス=流動とでも訳しましょう) は、ゼネレーションといっても、「世代」の意味ではありません。「今という時代」 と 「人のタイプ」、年齢ではなくマインドの問題だ と氏はいいます。従来のやり方に固執せず、柔軟でアジャイル。 成長のため、環境変化をTake advantage(利用)し、恐れずリスクをとる人間です。「最も重要なスキルは、新たなスキルを加える能力。」とも言っています。

 同誌は特集で、典型的フラックス達を紹介しています。第1回目の特集に登場したのは、20代後半から60代までの多様多彩な職業、経歴もそれぞれユニークな人たちです。たとえば写真中央の年配の男性は、永年同一企業に勤めたが、コンピュータ・グラフィックスで映画エイリアン等の特殊効果を担当後、晩年に独立。現在1200人を雇用するマーケティング会社を仕切っているひと。その左の女性は、ハーバードで建築を学び、ドキュメンタリー映画の監督,広告代理店やNPOや国務省を経て、いまコンサルタント。右端の男性は、ネット世界で急成長するスタートアップの一つ、ネット世界のマーケティング会社Mashableの創業者で28歳、と紹介されています。

 Fluxは、新たな仕事や環境に飛び込むことを恐れないばかりか成長のチャンスと喜ぶ人種なのです。

  「ファッションという伝統的業界でも、Fluxマインドは発揮されている。バーバリーは多数のアイフォンでショーを上から撮影しユーチューブで配信。トレンチコートの伝統を、テクノロジーでレレヴァント(今日の顧客に意味がある)にしている」。 ファッション産業が、ビジネスモデルとしては変化に乏しい業界とサティアン氏が考えている事は、ショックでしたが、確かにバーバリーの革新は、あちこちで取り上げられています。

  参加者へのメッセージとして、氏が送った「革新者から学んだ4項目」 は次の通りです

1.革新のアイデアをあらゆるところから見つけ出せ。イノベーションはサイロ(組織)間のギャップで起こるのだから。

2.自らのリーダーシップのあり方を再定義せよ。立派なデスクを定位置とするリーダーではだめ。革新を起こし続けなければならない。

3.自分がうまくやれることにフォーカスせよ。そして他を退けよ。

4.最も重要なことだが、自分のミッションを見いだせ。4PPurposePeopleProductProcessの中でも『目的(Purpose)』が最も重要。その目的が全てを動かす(Drive)するようにせよ。目的とミッションが明確であれば、うまく行かなかった場合も、その取り組みを誇りに思う事が出来る。

 サティアン氏の締めくくりの言葉はダーウィンの名言でした。

  「生き残るのは、もっとも強いものでも、もっとも賢いものでもない。もっとも変化に対応する ものだ」

  日本での「Flux ゼネレーション」の台頭を、切に期待しています。