2015年 8月 の投稿一覧

< WEF 1周年記念シンポジウム報告④  伊勢丹の石塚由紀氏が語るイノベーション>

 石塚由紀さんは、今年41日付で、執行役員立川店長に就任した、㈱三越伊勢丹初の女性店長です。その前には、初の女性営業部長として婦人第二営業部長、その後三越日本橋本店婦人営業部長それぞれ2年務めて、入社30年で執行役員になられました。日本トップ百貨店の伊勢丹とはいえ、歴史と伝統ある“男性主導社会”ですから、この営業部門で頭角を現わすのは、どのような人なのか、私も非常に関心を持ちました。

 シンポジウムでのプレゼンは、まず、30年にわたる、日本社会と自社の変化を振り返り、入社後の「シンデレラシティ」配属以来、シンガポール伊勢丹出向の5年間も含めた多様なキャリア履歴の紹介に始まりました。

 テーマの「新たな視点で、ビジネスを立ち上げる――イノベーションをリードする現場力」については、一筋縄では行かない課題への取り組みもふくめ、経験談を「サバイバル編」 「マネジメント編」 「リーダーシップ編」の構成にまとめて、ごく自然体で話されました。たとえば「サバイバル編」での、【部長に‘ばかやろう!’と怒鳴られた件】では、「このおじさん、なにを言っているのかしら、、、」 と 「我が事としてとらえない」対応をしたエピソードを、ユーモラスに紹介されました。 当事者の部長はきっと、「何だこいつは! 生意気だ!」と思われたことと想像しますが、大組織では、個人感情に流されることなく、しなやかに、クールに対応するのが共存の知恵なのだ、と私も共感しました。

 「マネジメント編」では、入社後ずっとファッション分野で経験を積んで来たのに、部長昇進で未経験のリビング担当になった事。「ファッションと違って商材も知らない、マネジメント経験もない。出来ることは‘人’の力を最大限に引き出して、成果をあげること。マネジメントが仕事と心得る」と開き直られたそうです。ストレスが多い職場環境、個人的なマイナスのライフイベントなどで、メンタル不調者が増え始めた時には、「産業カウンセラーの勉強をし、資格を取り、傾聴を体得し、マネジメントに活かす」ことに注力したという話には、多くの参加者から感動の声が漏れました。

 「イノベーション編」では、「自分はイノベーターか? そうではない。視点を広げ、こうだったらいいな、を語る。イノベーションのヒントは、小売業の場合、お客さまの生活の中にある。顧客接点から拾いあげるのが基本。なので、現場が重要」との明確な考えを持ち、リーダーとして、「プロセスの設計と、部下の背中を押すこと、成功事例を拾いあげて共有し エンパワメントする」ことの重要性も強調されました。

 「志を持つな。与えられた仕事をしっかりとやる。それを見ていてくれる人が必ずいる」

と強調された石塚さんですが、これには反論したい方もあるかもしれません。しかし大きな組織には色々な人がいて、「仕事が出来る人」は誰かが必ず見ている、あるいは認めてくれる人がいる、というのは事実でしょう。

これが、石塚さんのキャリア・アップの秘訣だったようです。

 “イノベーションの現場力”については、男性とは「肌実感」がちがう女性、また多様な人材によるダイバーシティ・インクルージョンが重要。「1500人いれば、その数だけの顧客との接点がある」。とのまとめは、ダイバーシティの本質を的確に表現した、素晴らしいまとめだと思いました。

< WEF 1周年記念シンポジウム③ カルビーの鎌田由美子氏が語る イノベーション>

 

 パネル・プレゼンターの鎌田由美子さんは、カルビー㈱上級執行役員ですが、今年の月まではJR東日本で、エキナカ・ビジネスや各種商業施設の立ち上げなどに取り組んで来られたファッション流通ビジネスの経験者です。
 旧国鉄の文化を引き継ぐJR
東日本に入社したのは「上野駅が変わります」の求人案内に胸が躍ったのがきっかけ。全社員の中で当時女性はわずか1%未満、という文字通りの男性社会で、運輸業としての鉄道以外のビジネスなど全く考えられなかった同社で、35歳の時、エキナカ のプロジェクトを部下2名とで任されたそうです。Ecuteの最初の取り組みは、大宮駅。なぜ大宮かといえば、バリアーフリー化が全くなかった駅だったから、との事。駅構内で、嗜好性の強い商品も含む物販をするおしゃれな商業空間、というコンセプトは、当初、理解してもらうのが大変で、「仕事の比率は、会社の内部のほうが80%で外部は20%だった。出来上がって目に見える形になると、『こういうものだと最初から言えば分かったのに』と言われてたと話して居られました。
 私自身も経験したことですが、新規商品や新規事業は、それまでになかったアイディアやコンセプトであればあるほど、「こんな形」と出来上がりを最初から伝えにくいものです。関係者を巻き込みながら、次第に形が出来て行く、といった事業やイノベーションが今後ますます増えて行く事でしょうから、アイディアをコミュニケーションする力や知恵が、不可欠になります。その時重要なのは、それを求めている人、あるいは顧客が居る。その人達のためにこのプロジェクトを実現するという熱い思いです。鎌田さんは、その思いのパワーで多くの難題を解決されたのだと納得しました。その時、顧客が(意識下もふくめて)求めているものを良く知っている、という現場力が女性に強みを与え、イノベーションにつながることも、お話しを聞きながら痛感しました。

 Ecuteを成功させ、ステーション・ルネッサンスに関わる事業、またJR東日本 ステーションリテイリング 代表取締役社長を務められた後、2008年からは、本社事業創造本部 部長として、地域活性化・子育て支援などの仕事をしてこられました。地域活性化では、越後湯沢駅リニューアル【がんぎどおり、CoCoLo湯沢】や青森でのAOMORO CIDRE(リンゴ・シードルの商品開発と製造)や、【A-FACTORY】の建設等、地域やデザイナーや建築家などの専門家を動かす仕事に関わられました。

 鎌田さんの新たな任務、カルビーでの上級執行役員・事業開発本部本部長としての 益々のご活躍を期待したことでした。

 (次回は、石塚由紀さんの講演についてです。)

 

< WEF 1周年記念シンポジウム②  南場智子氏が語る イノベーション」 >

 シンポジウムの南場智子さん(㈱ディー・エヌ・エーの取締役会長 ファウンダー)による基調講演で、私が特に感銘を受けたことをまとめてみたいと思います。

 講演は、16 年前に自ら設立した DeNAの、コマースからゲーム、さらに直近のヘルスケア分野へと “インターネットと巨大産業の協創”  による多様な事業展開を通じて、御自身の確信となったイノベーションとリーダー論だったといえます。たとえば“マンガボックス”(人気マンガ家の描き下ろし連載も無料で読めるアプリ)や“チラシル”(いつどこのお店で買うのが一番お得か一目で分かる)。さらには、シック・ケア(病気をケアする)からヘルス・ケア(健康をケアする)に移行する手段としてスタートしたばかりの、遺伝子検査サービス“MYCODE” など、時代の先端を行く革新的事業の上梓です。 

 新規事業の進め方について、南場氏は次のように語りました。「従来は、『企画』 『準備・開発』 『スタート』 『スケール』の各段階の間に、トップの判断(進行の許可)を入れていたものを、“Permissionless” (許可なし)にし、4段階目の『スケール』(大規模展開)に移行するか否かの段階で初めてトップの判断を入れる、と変更したというのです。何故なら、その事業の成否は顧客に問うのがベストであり、「まずやってみてフォロワーがどれだけつくか、など反応を見て、大規模展開すべしとなったら、そこで巨額の投資を経営者が判断する方が、今のビジネス環境に合っている。開発の経費は、サーバーなども安価になり、顧客の反応(リピート率やエンゲイジメント時間など)を把握する事が容易になっているのだから」 というのです。

 革新的ビジネス手法としてのデータマイニング(ビッグデータ解析)も強く印象に残りました。スマホやインターネットが浸透し、情報過多、競合サービス多数で、顧客は1秒で競合サービスに移動が可能な今の時代。どうやったら関心を持ってもらえるか? どうやったら利用開始してもらえるか? どうやったら使い続けてもらえるか? が重要になるが、そのためには、従来の人口動態的な顧客セグメント(年齢・性別など)よりもっと細かな、「個々人への最適化」が不可欠で、そのために「150億超の行動解析ログデータ」を取っている。その結果、「利用を始めてもらう力」は、個人への最適化で3.8倍に、「利用を継続してもらう力」は9.7倍になったといいます。

 こういったイノベーションのために、“生きのいいアイディアを出せる”人材と“データ分析の鬼”を、トップレベルで確保することに注力している、とのまとめに、納得した事でした。

 (次回は、鎌田由美子さんの講演についてです。)