石塚由紀さんは、今年4月1日付で、執行役員立川店長に就任した、㈱三越伊勢丹初の女性店長です。その前には、初の女性営業部長として婦人第二営業部長、その後三越日本橋本店婦人営業部長それぞれ2年務めて、入社30年で執行役員になられました。日本トップ百貨店の伊勢丹とはいえ、歴史と伝統ある“男性主導社会”ですから、この営業部門で頭角を現わすのは、どのような人なのか、私も非常に関心を持ちました。
シンポジウムでのプレゼンは、まず、30年にわたる、日本社会と自社の変化を振り返り、入社後の「シンデレラシティ」配属以来、シンガポール伊勢丹出向の5年間も含めた多様なキャリア履歴の紹介に始まりました。
テーマの「新たな視点で、ビジネスを立ち上げる――イノベーションをリードする現場力」については、一筋縄では行かない課題への取り組みもふくめ、経験談を「サバイバル編」 「マネジメント編」 「リーダーシップ編」の構成にまとめて、ごく自然体で話されました。たとえば「サバイバル編」での、【部長に‘ばかやろう!’と怒鳴られた件】では、「このおじさん、なにを言っているのかしら、、、」 と 「我が事としてとらえない」対応をしたエピソードを、ユーモラスに紹介されました。 当事者の部長はきっと、「何だこいつは! 生意気だ!」と思われたことと想像しますが、大組織では、個人感情に流されることなく、しなやかに、クールに対応するのが共存の知恵なのだ、と私も共感しました。
「マネジメント編」では、入社後ずっとファッション分野で経験を積んで来たのに、部長昇進で未経験のリビング担当になった事。「ファッションと違って商材も知らない、マネジメント経験もない。出来ることは‘人’の力を最大限に引き出して、成果をあげること。マネジメントが仕事と心得る」と開き直られたそうです。ストレスが多い職場環境、個人的なマイナスのライフイベントなどで、メンタル不調者が増え始めた時には、「産業カウンセラーの勉強をし、資格を取り、傾聴を体得し、マネジメントに活かす」ことに注力したという話には、多くの参加者から感動の声が漏れました。
「イノベーション編」では、「自分はイノベーターか? そうではない。視点を広げ、こうだったらいいな、を語る。イノベーションのヒントは、小売業の場合、お客さまの生活の中にある。顧客接点から拾いあげるのが基本。なので、現場が重要」との明確な考えを持ち、リーダーとして、「プロセスの設計と、部下の背中を押すこと、成功事例を拾いあげて共有し エンパワメントする」ことの重要性も強調されました。
「志を持つな。与えられた仕事をしっかりとやる。それを見ていてくれる人が必ずいる」
と強調された石塚さんですが、これには反論したい方もあるかもしれません。しかし大きな組織には色々な人がいて、「仕事が出来る人」は誰かが必ず見ている、あるいは認めてくれる人がいる、というのは事実でしょう。
これが、石塚さんのキャリア・アップの秘訣だったようです。
“イノベーションの現場力”については、男性とは「肌実感」がちがう女性、また多様な人材によるダイバーシティ・インクルージョンが重要。「1500人いれば、その数だけの顧客との接点がある」。とのまとめは、ダイバーシティの本質を的確に表現した、素晴らしいまとめだと思いました。