2016年 10月 の投稿一覧

<ファッション・ビジネスでの起業 成功に必要なものは? WEFがシンポ開催>

  ファッション・ビジネスが大きく変容を遂げつつある。その中で成功し続けるためには、ディスラプト(既存の秩序を破壊)するような破壊的変革が必要だと考え、『 Fashion Business  創造する未来』の本を出版したと、先回 書きました。

 変革の芽は、新たなビジネスの起業から生まれます。ファッション・ビジネスは変化のビジネスであり、次々に新たな会社が生まれるのが健全な状態なのですが、このところそれが停滞しています。そこで「ファッション・ビジネスでの起業」をテーマに、WEF 8回シンポジウムを開催します。

 講師は、DoCLASSE 社長の林恵子氏と、メーカーズシャツ鎌倉の創業者で現会長の貞末良雄氏。117日(月)  18:30 から、場所は、青山のウィメンズプラザです。(ご案内は、WEFホームページ: http://www.wef-japan.org/event/888.html を) WEF第8回シンポジウム_ご案内

 お二人とも、良い商品を、手ごろな価格で、顧客のニーズにマッチする形で提供するために、従来のファッション流通、すなわち、多くの中間企業が介在する重層構造を抜本改革する形の起業をされた方です。

 林恵子さんは米国のランズエンド日本社の社長時代に、日本女性の好み、特にサイズやフィットをしっかりと抑えたおしゃれな服をネットで提供する会社を作る、という夢を持ち、10年前に DoCLASSE を立ち上げられました。40代、50代女性顧客の圧倒的支持をえて、現在では、外反母趾で悩む女性をふくむ履きやすい靴をあつかう fitfit も展開しておられます。店舗を持たず、消費者に直接販売する「ネット通販」が流通コストをミニマイズする、というコンセプトでスタートしたのですが、店舗を出してみたら、これがまた消費者からの情報が直接得られると同時に、顧客満足を一層高められる、と、自然な流れで現在話題の「オムニチャネル」に発展しました。ネットをフル活用しながら、実際の商品やコールセンターの顧客への対応は、非常にアナログ。企画や営業とコールセンターのオペレーターが大部屋に同居し、顧客の質問に答える際には、必要に応じて実際に顧客と同サイズの社員がその商品を着用してみる、などということもやっています。

 メーカーズシャツ鎌倉の貞末良雄会長は、ヴァンジャケット時代に創業者石津謙介氏の薫陶を受け メンズウェアの基本を徹底的に学ばれた方です。そして、日本のビジネスマンが世界で胸を張れるシャツを作り、高品質でもいわゆる高級シャツの 3分の 1 以下の価格で提供する夢を実現されました。そのためには、工場、それも高級なシャツ地を作る織屋さんや日本でも数少ない高レベルの縫製工場と直接、また緊密な関係を持つこと。工場への発注も、繁閑が少なくなるよう、売り場での展開をからませたマーチャンダイジングと連動させて行うなど、工場側の条件やニーズに合わせることに注力しておられます。顧客と工場、そして小売業である同社が、Win-Win-Win (三方よし)になること、がビジネスの基本哲学だといいます。2012年に、ニューヨークのマディソン街、世界的なメンズウェアの有名店がひしめく地域に出店。以来、優れた品質とサービスで、固定客を増やして、昨年末には、ニューヨークの金融街にちかい高級ショッピング・センター、Brookfield Place  に第2店舗を開店しました。

 DoCLASSE とメーカーズシャツ鎌倉の成功は、それぞれの創業者が、「これではよくない」、「真に消費者のためになるビジネスを始めたい」との強い思いをもって、取り組まれたことにあります。

 日本は一般に起業が難しい国だといわれます。リスクを取りたがらないカルチャーや、資金調達の仕組みの未開発、また一度失敗したら再度ビジネスを行うことが難しくなる、という、失敗を許さない社会環境、などが、起業を阻んでいるからです。

 しかし今、新たなビジネスを立ち上げる環境条件は、かつてないほど揃っています。ファッション・ビジネスの現状に不満な消費者、ネットビジネスの急成長、活用できる先端テクノロジーの拡大と低コスト化、などがあるからです。

 想いの熱い起業家が、新しい時代を切り開くビジネスの立ち上げの、ヒントを得て頂けるシンポジウムだと思っています。ご関心のある方は、ぜひご参加ください。

尾原著 『 Fashion Business 創造する未来』 に嬉しいコメントを頂きました

 ファッションや文化史を多様な視点からとらえ、気鋭の文筆家としてもファンの多い中野香織さんが、私の近著 Fashion Business 創造する未来』 について、ブログに書いてくださいました。

(中野さんのブログ http://www.kaori-nakano.com/2016/10/12/12653/ )

 コメントで嬉しかったのは、「現状を俯瞰し、足元をもう一度見つめて未来を創造するために、深い思索を促す本です。4年がかりでまとめ上げられた大作は、新幹線片道で読める類の軽い本ではなく、相当な歯ごたえがあります。それゆえに、得るものもいっそう大きい。グローバリゼーションとデジタル革命がすすむさなか、新しい現象が生まれては消え、さらに新しい現象が続々起きているように見えますが、本当のところ、現実にいったい何が起きているのか。錯綜する現状を把握し、進路を定めるための灯台となってくれる本です。」と書いてくださったこと。また Facebook には、「きちんと整理された見取り図に、豊富な具体例。これだけのデータを集め、整理することがどれだけたいへんなことなのか…。 座右に置き、折に触れ参考にさせていただきます」ともあります。

 中野さんは、おしゃれでチャーミングな女性ですが、物事の真相を深く読み取る鋭さを持っておられる方。嬉しかったのは、その中野さんのコメントであること。そして何よりも私が意図した〝ファッション・ビジネスの表面的事象や変化だけでなく、その底流にある人々の意識や社会の本質を見極めること。 ビジネスも単なる利益追求ではなく社会善を生む新たな存在として極めること″への努力を感じ取って下さったことです。

 日本では、ファッションあるいはファッション・ビジネスが、表面的な流行や世相、あるいは金儲けのためのノウハウとして捉えられることが多いことを、私は日頃から残念に思っています。日本に欧米のような、ファッションやファッション・ビジネスについて深く研究するアカデミックな大学や専攻がほとんどない事が、それを何より物語っています。

 中野香織さんは、その中で数少ない研究家といえるでしょう。東京大学の大学院、総合文化研究科で地域文化専攻博士課程を修められ、英国のケンブリッジ大学客員研究員を務められた経験などをふまえて、男女ファッション史から最新モードまでを研究・執筆され、現在は明治大学で特任教授としての講義もなさっています。

 「ファッション業界の人は本を読まない」と言われています。でもこの歴史的な大変革の時代に、人や社会あるいはファッションがどう変化してゆくのかを、真剣に、そして深く考え、行動する人が増えることを、日本の将来のために願っています。

 Fashion Business 創造する未来』 も、そのよすがとして是非読んでいただき、活発の議論を巻き起こしていただければ、これに勝る喜びはありません。

 (『 Fashion Business 創造する未来』  2016928日 出版。 定価2000円。お問い合わせは、繊研新聞社 03-3661-3681

尾原蓉子の 『 Fashion Business 創造する未来』 が 出版されました 

 日本のファッション・ビジネスへの提言書、Fashion Business 創造する未来』が発売になりました。4年がかりで書き上げた本です。

「ファッションが売れない」、「百貨店の不振はファッションが売れないから」といったニュースが新聞やテレビに頻繁に登場しています。その理由は、時代が大きく変化し、ファッション・ビジネスのパラダイムが全く変容したのに、ファッション業界がそれに対応していないからです。今週発売の日経ビジネスも、「買いたい服がない――アパレル、“散弾銃商法”の終焉」 と題する大きな特集を組んでいます。

 この本は、大変革期にあるファッション・ビジネスの近未来を展望し、いま私たちは何をなすべきか。このまま「ゆで蛙」になることなく発展するには、どのような「ディスラプション」( 旧来秩序の破壊と創造)、視座の180度転換、が不可欠か、を考えて頂くために書きました。  (詳細は:http://www.senken.co.jp/cart/globalisation-digital-fashion/ )

 表題を「創造する未来」としたのは、「未来は、予測するものではなく、創るものである」。〝創るのは(誰かが、ではなく)、あなた″、そして〝いずれ、そのうち″ではなく、〝今″、であることを読者の方にアピールしたい、との強い思いからです。 

 日本に初めてファッション・ビジネスの言葉と仕組みを紹介した拙書「ファッション・ビジネスの世界」の翻訳出版から、48年(ほぼ半世紀) の月日が経ちました。この間日本のファッション・ビジネスは、猛スピードで成長し、急速に成熟し、そして今巨大な壁にぶつかっているのです。巨大な壁を作っているのは、デジタル化とネット化を中心とするテクノロジーの急進展、グローバル競争、そして消費者の価値観と購買行動の変化です。

 ファッションは、流行を追うよりも〝自分のライフスタイル創り″ になりました。日本の市場にはファッション商品はあふれているのに、個人としての生活者が欲する適切なものを、見つけやすく、買いやすい形で提供できていないことが問題なのです。レンタルや  CtoC ビジネスが台頭する中で、ファッション・ビジネスにはこれまでの「物売り」モデルから「ファッションのサービス化」への脱皮が求められているのです。

 本の内容は、以下のようになっています。事例もふんだんに紹介しました。

 ファッション・ビジネスの未来を創ろうという、若者や女性の皆さんにも、ぜひ読んで頂きたいと願っています。また、ご意見を聞かせて下さい。

 

Fashion Business 創造する未来』:  目次

<はじめに> 革命的変化が起きている

第一部 ファッション・ビジネスのパラダイム・シフト

  1章:変容を象徴するディスラプト(破壊)的ビジネスモデル 

  2章:巨大潮流とファッション・ビジネスへのインパクト

  3章:これからのFB の核となるコンセプトを米国先端事例にみる

第二部 ファッション・ビジネスにおける価値創造

  1章:日本のFBにおける価値創造の変遷とこれから

  2章:あらためて考える「 ファッションとは何か」

  3章:ファッションの価値創造の3つの牽引力――High StyleHigh PerformanceHigh Devotion

第三部 ファッション産業とビジネスはどう変わる 

  1章:テクノロジーが拓く近未来のFBと産業構造のイメージ

  2章:ファッション企業が、いますぐ取り組むべき事―-デジタル化/EC化、オムニチャネル、パーソナル化、サービス化

  3章:マーチャンダイジング/マーケティング/マニュファクチャリングの革新

第四部 グローバル時代の、日本企業と個人の課題

  1章:「グローバル企業」になる 

  2章:ファッションの新しい形を世界へ――日本が持つ独自性と強み、用の美、Cool Japan、など

  3章:世界で活躍するための企業への期待、個人への期待

<最後に>

成功の鍵は、ディスラプションとイノベーション(革新)  

「 未来は既にここにある。ただ、すべての人に平等に分配されていないだけだ」

                                                                                        End