2019年 3月 の投稿一覧

<NRF 2019報告④ デジタリー・ネイティブ・ブランド (DNB) の台頭に注目を!>

 “デジタリー・ネイティブ・ブランド (呼称DNB)” の登場が、今年のNRFでは目立ちました。今回は、急速な台頭が注目されているDNBの意義と、典型的な事例についてご紹介します。

 NRF大会では毎年必ず最終日に、若い起業家が3~4人が登場するセッションがありました。彼らが新しいビジネスコンセプトや起業の想いを語ることが、未来へ向けての革新を示唆するようにセミナーを企画していたものと思われます。しかし今年のNRFでは、初日からDNB創業者の登壇や、起業事例の紹介が数多くありました。その背景には、デジタル・テクノロジーが拡大し、豊富な投資マネーにより起業も容易になったいま、多様な“デジタリー・ネイティブ・ブランド” の立ち上げが、ビジネスを活気づけている事があります。

デジタリー・ネイティブとは?

  デジタリー・ネイティブという言葉の意味は、“生まれたとき、または物心がつく頃にはインターネットやパソコンなどが普及していた環境で育った世代” です。この言葉は、2001年に米国のマーク・プレンスキー(教育者でビジネス戦略家、文筆家)が、その著 『デジタル・ネイティブ、デジタル・イミグラント』 で使ったもので、デジタル世代の考え方や生き方は過去の世代と全く異なる。これに照準を当てて学校教育を刷新すべし、と提唱したことがきっかけで知られるようになりました。それがいま、消費者とビジネスのありようが大変容するビジネス現場で、注目されているのです。

 ちなみに、“デジタル・イミグラント(デジタル移民)”とは、デジタル以前に生れた世代。デジタル世界に生まれ育ってはいないが、大人になってから、このデジタルという、まったく違う世界に何とか対応・順応しようと努力している、いわば他国からの“移民”だというわけです。

 デジタル・ネイティブは、年齢的にはアメリカでは1980年台以降に生まれた人たち、日本では90年代半ば以降に生まれた世代、と考えられます。現在世界に、3.6億人のデジタル・ネイティブがいるといわれています。

「bonobos founder」の画像検索結果  (Bonobos 創業者 アンディ・ダン氏 画像はWikipedia)

■    DNB(デジタル・ネイティブ・ブランド)に共通する4つの特徴

 DNB(デジタリー・ネイティブ・ブランド)という言葉を小売り業界で広めたのは、Bonobos(ボノボス)というメンズウェアのショールーム業態を2007年に創業したアンディ・ダン氏の2017年の著作 The Book of DNVB』 と 『The DNVB Encyclopedia(百科事典)』でした。彼がここで DNVB (Digitally Native Vertical Brand)として Verticalの言葉を入れているのは、DNBが、モノやサービスの企画・製造から顧客(消費者)にわたるまでを垂直的につないでいる、他社を介在させない、の意味を持たせたからです。  (ボノボスは 2017年にウォルマートに 3.1 億ドルで買収され、アンディ・ダンは、現在ウォルマートのシニアVPとして引き続きボノボスに関わっています)

 アンディ・ダン氏によれば、デジタリー・ネイティブ・ブランドとは、「熱狂的に顧客体験にフォーカスし、ウェブ(デジタル技術)を中心に、顧客とインタラクトし、トランスアクト(取引)し、ストーリーを語るブランドだ」 です。

DNBよるイノベーションの4つの特徴とは:

1.直接ソーシング(生産や直仕入れ)でコスト削減=複雑な伝統的流通構造の回避

2.ブランド体験の増幅=ブランドとは、製品・顧客体験・顧客サービスの総合体である

3.従来と違う流通形態やチャネル=消費者直販(DTC)を、デジタルと実店舗で行う

4.SNSへの高度な取組み=1 to 1 マーケティングによるコミュニティづくり

■   代表事例としての allbirds (オールバーズ)

 オールバーズ(allbirds)はニュージーランドの元フットボール選手ティム・ブラウンが、米国シリコンバレーの友人と組んで起業した、スニーカーブランドです。選手として長年、履きやすく靴下なしで履いても快適、洗濯機で丸洗いが可能な靴をさがしていました。そして自らエコロジー志向で素材にこだわった運動靴を開発したのが、ニュージーランドの高級メリノウール使いの運動靴でした。「アルマーニのジャケットに使う」グレードの羊毛を使っている、といいます。

開発製品第1号 メリノウール使いスニーカー。洗濯機丸洗いも可能

10色を超えるカラフルな靴紐を組み合わせる

 最初はデザインも1型、カラフルな多色展開で、多色の靴紐(シューレイス)を好みで組み合わせ購入するというもの。(画像参照) 何回も洗濯機で丸洗いしても、表面に少し形状変化が起きるだけで履き心地も見かけも変わらない。そこまで持ってゆくために、顧客の声を聴きながら、発売後も 27 回も改良を重ねたそうです。

 価格は、大人物(男性・女性用とも)95ドル、子供物は 55ドル、というシンプルな値付け。次いでスリップオン・タイプも開発。紐靴に加えて2 型になりましたが、当初はネットのみの販売で、靴を入れる箱(宅配用)にも工夫をこらし、簡単な折り曲げ操作でテープを巻けば、そのまま出荷できるといったアイディアももりこんでいます。(画像参照)

左右に靴を入れ、内側に折りたたむと出荷用の箱が完成

 ニューヨークのソーホーに2017年秋に開店した第1号店は、回し車に顧客が入ってランニング試着を楽しむショップ。カラフルな商品をセレクトする体験も併せて、まさしく顧客の感動体験を生むものでした。   

                 

                    回し車に入って試着・試走をする顧客

人気が急上昇するとすぐにコピーも出回りました。「あんなに早くコピーがでるとは!それもヨーロッパの大手靴メーカーまでが、と本当に驚いた。コピーするなら品質まで完全にやってほしいよ。」とブラウン氏。テクノロジー・ニュースのサイトRecodeの編集長によるNRFのインタビューでの、「靴にはロゴマークをつけていない。かかとの後ろのソール部分に allbirds と控えめにレイズ表示されているだけ。なぜか?」 との問いに答えて、ブラウン氏は 「われわれはブランドロゴで製品を売ることはしたくない。靴の良さを本当に理解してくれる人に買ってほしい」と答えています。まさに、誠実で正統派(オーセンティック)なモノづくり、の姿勢といえましょう。

 その後、売り上げ急上昇でウール素材の入手が困難になり、ユーカリやサトウキビを原料に使う靴づくりに移行。現在の店舗はそれらの写真やサステナビリティへの想いを強くアッピールするものになっています。「われわれは、サステイナブル素材のブランドだから」と胸を張るブラウン氏に大きな拍手を送りたくなりました。

サステイナブル素材のメーカーとしてユーカリやサトウキビを原料に使用

 2015年創業のこのallbirds は、まさしく先に挙げた、DNBの4つの特徴を備えています。直接ソーシングでコストを削減し、アスリートが熱望する、快適でサステイナブルなシューズを安価で提供する。また、すぐれたブランド体験を提供しファンを作る。既存の流通チャネルに頼らず、消費者直販(DTC)を自ら開発したデジタルおよび実店舗(現在2店舗)で実現する。そしてソーシャル・メディア(SNS)フル活用のマーケッティングで売り上げと顧客と支援者を作りました。“物語を語る”という点でも、抜群のストーリー・テリングのブランドになりました。

 そして何よりも、「NRF 2019の 6つのインパクト」 の第一に挙げられた “パーパスフル”、すなわち、目的意識が明確な、エコロジー志向(社会善)の使命感に満ちた事業であることに元気づけられます。

 このようなデジタル・ネイティブは、アメリカで多くの新事業を起こしています。今後はさらに多様なビジネスや NPO を展開してくれるでしょう。日本でも、こういった動きが進むことを切望しています。

< NRF 2019報告③ アマゾン支配と戦う店舗小売業:ハイパワー店舗とECの一体化>

 米国では、アマゾン急成長とEコマースの拡大が、店舗閉鎖を加速し、業界再編成が進みつつあります。その中で元気づけられるのは、リアル店舗が、顧客にフォーカスしたデジタル支援で、新たなパワーをもちはじめたことです。

 NRF報告第3弾は、 “アマゾン支配に立ち向かう店舗小売業:店舗のパワーアップとECの一体化” について書きます。

 ネット販売の拡大と、アマゾンが次々に打ち出す宅配の革新やPBの強化、プライム会員顧客の囲い込み、エコーなどの音声アシスタントが、店舗小売業を大きく圧迫する中、2018年も多くの店舗が閉店しました。その数は6000店とも 8000店ともいわれており、シアーズやトイザらスの倒産も象徴的です。今年1月早々には、一時期、ニューヨーク五番街でファッションのシンボルであった老舗ロード&テイラーが104年にわたる歴史を閉じ、華やかだったヘンリ・ベンデルも、123年の歴史にピリオドを打ちました。今月(3月)に入っては、Gapが2年間で230店舗を閉鎖する、と発表しています。

  しかし2年ほど前から盛んに言われた、『小売りのアポカリプス黙示録)』 (小売りの最後の日が来る、の意) については、今年のNRFでは否定的な発言が多く出されました。店舗の閉鎖も、今年で底を打つだろうというコメントもありました。その理由は、危機感を持った革新的小売の施策が、実効を出し始めたことにあります。アマゾンに破れるのではないか、と懸念されていたウォルマートやターゲットが取り組んでいる抜本的改革が、明るい光を差し込んだ、と感じるからでしょう。最終的な勝ち負けの決着は予測できませんが、店舗を持つ企業が、「店舗こそが最大の競争優位」の姿勢を鮮明にして動き出し、その成果が見えはじめているからです。

 NRF2019で特に注目されたターゲット CEO ブライアン・コーネル氏(画像)の基調講演から、同社の2017年以降の戦略と実践を紹介しましょう。

基調講演のテーマは 『もっと店舗に:ターゲットはゲストと未来に投資する』 でした。

 

 ターゲットは2018年のホリディ商戦で、既存店売り上げを5.7%伸ばし、2018年を10年来の好業績で終えました。その理由としてコーネルCEOは、ECと店舗の一体化を推進した成果。特に 「店舗が唯一で最高の競争優位」 であることに気づいて、2017年に大きな戦略転換に踏み切り、店舗へ70億ドル、人に10億ドルの投資をしたと話します。人への投資は、昇給、教育を合わせた金額です。顧客体験を向上するには、人がすべてだからだと。

ターゲット社 2018年のリモデル(ホームページより)

 店舗への投資はデザインからテクノロジーまで多岐にわたります。2018年から売場を顧客に魅力的にかつ買いやすくリモデルした(画像はホームページより)ことももちろんですが、同社が昨ホリディ商戦で、デジタル(EC)売上の4分の3を店舗からフルフィルメントした、との驚くべき成果を生んだのは、BOPIS(オンライン購入・店舗ピックアップ)と店舗からの配送によるものです。店舗スタッフが、在庫検索・支払・デリバリー手配などの機能を搭載した端末を持ち、顧客はレジに並ぶことなく店舗のどこからでもチェックアウトできる仕組みを作っていたからだといいます。ホリディの多忙な時期には特に有効であるこの仕組みが、在庫/配送コスト削減、ついで買い、そして顧客満足に貢献したのです。

 店舗とEコマースを一体化するための組織とマネジメントの変革が、非常に重要であったことは言うまでもありません。コーネル氏は講演で、Stores と Target.com の2つに分かれていた組織を、仕入れ、在庫、ディストリビューションのすべてを完全に合体させたと説明しました。(図 左から右下へ)

 同時にPBにも注力。過去2年で顧客の参画を得て開発したPBは20。C9 by Champion, Mossimo, joana and chip gaines collectionなど、差別性あるブランドが、新規顧客獲得にも大いに貢献しているとのこと。

  新規店舗デザインでの、小型店舗の設計、入口を2か所に設置し「御用とお急ぎ」(BOPISやグロッサリー購買、サービスカウンター) と 「ゆったりショッピング」 に分けるなども顧客セントリックの考えからでした。

 ウェブサイトも顧客に親切で、気に入った服があれば、「今すぐピックアップできる店」 をチェックし、買いに走ったり、自分がピックアップしたい店の指定も出来るようになっています。 オムニチャネル展開の難題であるラストマイル(宅配で商品を顧客に届ける最後の部分の時間とコスト)についても、ピックアップ・ロッカーの設置やカーブサイド・ピックアップ(車よせで乗車のまま商品受取り)を可能にしています。 

 氏のメッセージは、「小売りに不可欠な4点は、①常に顧客から考える、②投資、③再投資、④自らのディスラプト、だ。最終的に重要なのは顧客とのエモーションナルなつながり。これに勝るものは未だ登場していない」。「店舗とECは一体」。

 特に印象に残った言葉、「他人のゲームを戦っていては決して勝ち目はない」は、非常な説得力がありました。日本的に言えば、「自分の土俵で戦え」です。

 そもそもは、デイトン・ハドソン百貨店のディスカウント部門としてスタートしたターゲットが、今日の激変する環境の中で、さらなる新たな変革に挑む姿にいたく感銘を受けました。                                                                                                            End