2020年 3月 の投稿一覧

< NRF 2020大会リポート④ 小売り業のサービス化(1)ノードストロム >

 NRF 2020のセミナーで私の期待が最も大きかったのは、ノードストロムCEOによる基調セッションでした。タイトルは、「お客様に、お客様の条件でサービスする――エリック・ノードストロムとの会話」 。昨年10月に、宿願のニューヨーク、マンハッタン中心部に旗艦店を完成させたノードストロム。顧客の声を、文字通り吸収しながら、これまでになかった業態、すなわち、従来とは全く異質の「最も体験型」(CEO談)百貨店、ワクワク感とコンシェルジェ機能を提供するお店を作り上げました。 階建て、3.2万㎡のレディス館は、2年前開店のメンズ館と合わせて、「もし、私達がやりたいビジネスで世界でベストになるためには、ニューヨークに出店せねばならない」 という先代からの夢を実現するものでした。(画像① レディス館前景。NRFプレゼンより)

 百貨店のディスラプションが求められているいま、ノードストロムがその一つのヒントを提供してくれるのではないか、と私は考えています。

<ノードストロムのニューヨーク旗艦店>

画像① ノードストロム NY旗艦店 (NRFプレゼンより)

 共同CEOエリック・ノードストロムは語ります。「2012年のリース契約時点では、従来型の店を考えていました。しかしこの間消費者も環境も激変。いまやECとリアルの境界線はない。顧客にはチャネルという考え方がないし、またフルプライス、オフプライス、ECと、横断して買い物している。店舗の売上を分析すると、その50%以上が何らかのネット行動と関係しており、EC売上の1/3以上が店舗での体験を含んでいることが分かったのです。」

 そこで実現したのが、マンハッタン57ブロードウェイの旗艦店を中心に、衛星のようにNordstrom Local 2店、Nordstrom Rack(オフプライス)2店、Trunk Clubがマンハッタンに広がる構図でした。(画像② マンハッタンに広がるノードストロム店舗。同社ホームページより) 

画像② マンハッタンに広がるノードストロム店舗。(同社ホームページより)

    旗艦店の内部は、高い天井のゆったりした空間に、シンプルで斬新な移動什器を多様に活用、シーズン毎のファッションをフォーカルポイント的に提示しています。(画像) 

各売り場は、商品がかなり絞り込まれていて見やすく、売り場の表示も親切です。他の百貨店のようにラックいっぱいに商品が下がっている、といった感じはありません。

画像③ ファッション売り場 フォーカルポイント

画像④ BOPISのピックアップ棚 オープン棚だがアソシエイトが手渡し

 扱い商品はデザイナーからDTC、ユーズドまで。サービスコーナーがあちこちに配置され、コンシェルジェ・デスクに始まり、BOPIS(ネット注文の店舗ピックアップ)(画像)、お直しや刺しゅうなどのカスタマイズコーナー(画像、ファッションのスタイリング・サービス、ビューティ関連ではエステからパーソナルケア、ウェルネス等々。その他多様なサービスがあります。

 画像⑤ お直しコーナー 「お待ちの間に、、」

店内には10のレストランやバーが点在し、売り場からの閉鎖性が少なく、リラックスした雰囲気です。極め付きは、靴売り場のShoe Bar(画像)。売り場の中に本格的バーのようにボトルが並んだカウンターがあります。グラスを片手に買い物する顧客が微笑み、知らない客同士の会話がも弾んでいるとのこと。エリック・ノードストロムCEOは、「なぜもっと早く気付かなかったのか!」と述懐。NRFに参加したプレス招待レセプションも、この靴売り場(地下1階)で開催されました。

画像⑥ 靴売り場にあるバー Shoe Bar

 Nordstrom Local は、2017年秋にロサンゼルスで2店を試行した商品陳列が少ないサービス中心のミニ店舗です。ニューヨークでは在庫もサンプルも無い、ロサンゼルスよりは大分小ぶりの地域密着のサービス専門店舗になっていますが、顧客に身近かに位置して旗艦店を補完しながらノードストロム全体としてのサービスを提供しようとしているコンセプトは同じです。機能としては、BOPIS、返品・交換、お直し(他店で購入したものも)、事前にアポを取ればスタイリングも行います。

 ノードストロムは大会後の1月30日に、 See You Tomorrowの名でセカンドハンド商品の販売も発表、翌日から店舗のコーナー展開で販売開始しました。プレスリリースによれば 「お客様が自分が買ったブランド、あるいはどういう買い方をしたかについて“フィールグッド”(いい気持ち)になるよう、服やアクセサリーを同社のクリエイティブ・プロジェクト担当VPのオリビア・キムがキューレイトして提示しているとのことです。商品の仕入れは前回紹介したヤ―ドルとの連携によるもののほか、消費者からの持ち込みもあります。同社のバイヤーが評価し買い上げを決めた商品については、ギフトカードの形でネットあるいは店舗で支払われる仕組みです。 

 これらの新しい挑戦が百貨店の未来を拓くものになるか? 百貨店が総じて苦戦を強いられている中で、「お客様の声」に忠実に耳を傾けながら、絶えず変化を続けてきたノードストロムという小売企業を、いま改めて見直してみたいと思います。

<百貨店の栄枯衰退とノードストロム>

 米国における百貨店の歴史を大づかみに見ると、4つのステージをたどってきました。まず第1に、「都市化」(アーバナイゼーション)の時代です。産業革命の進展と中産階級の台頭とともに百貨店が誕生し発展しました。 

第2は、第2次世界大戦後に急速に進んだ 「郊外化」です。戦後の平和と新ファミリーの急増が郊外化を促進、郊外に ショッピング・モール” が誕生し存在感を強めた時代です。1950年代末には時流に乗ったおしゃれな百貨店は、その中心的存在になりました。

3は、「専門化」の時代です。郊外化は不動産ビジネスにチャンスを広げ、1980年代には多くの専門小売業が成長しました。家電や書籍や玩具といった専門大型店、いわゆるカテゴリーキラーが急成長すると同時に、小型の専門店も、モールのテナントとしてビジネスすることにより、それまでの百貨店すなわちデスティネーション・ストアとしてのワンストップ小売業と、競争しないでも済む環境が生まれました。この段階で百貨店は、それまで保持してきた競争優位を失ったのです。

「デジタル化」の時代には、インターネットの浸透とEコマース、すなわち百貨店を当てにしなくても販路が得られるネット小売業の拡大、あるいは自らが消費者に販売するDTC(消費者直販)などの業態が台頭し百貨店に変革を迫りますが、他の伝統的産業(雑誌や新聞)同様に巨大なレガシー体制と抜本改革を躊躇する意識がそれを阻み、変革が遅れてしまっている、と言えるでしょう。これまでの顧客層が高齢化し、デジタル世代のミレニアルやZ世代を取り込むことが出来なければ、百貨店の回復は困難と言わざるを得ません。

 ノードストロムも決して順調な成長を続けているとは言えません。しかし同社の「絶えず顧客の声に耳を傾け、顧客の行動をもとに考えるDNAともいえる社風と、いつも危機感を持ちながら柔軟にかつ大胆に新規プロジェクトに取り組んできたノードストロムは、明らかに「次世代の顧客にも評価される小売り業」への実験を重ねています。ネットでの売り上げも、35%を超えたといわれています。

 そもそもノードストロムの創業は百貨店ではなく、スエーデンからの移民(ジョン・W・ノードストロム)が始めた靴の専門店でした。彼は16歳の時にわずか5ドルの所持金でニューヨークに上陸。アラスカの金鉱掘りなどで貯めた資金で1901年、ワシントン州のシアトルに靴専門店を開店、成長。その後、1963年に事業拡大を目指し婦人アパレル専門店の Best を買収。1971年上場して正式に Nordstrom,Inc.になり、その2年後には年商1億ドルを超え、西海岸最大の専門店になり、1978年には南カリフォルニアに進出。1988年には東海岸初めての店舗を首都ワシントン郊外に開店、はじめて米国全国展開の小売業となりました。このころから、大型専門店(サックスやノードストロム)が、扱いカテゴリーを減らす百貨店との区別がつけにくくなり、百貨店と呼ばれるようになったのも、歴史の一部です。

 現在の経営陣は、このノードストロム家の4代目に当たります。ノードストロムの創業時からの哲学は、「顧客に、可能な限り最良なサービス、品ぞろえ、品質、そして価値を提供すること」でした。各世代が、まじめに謙虚にそれを継承し、今日に至っています。筆者もノードストロム幹部との会合などで、彼らが何かにつけ「What did customer say? お客さんは何と言っているの?」 とスタッフに問いただすのを聞いてきました。「Customer is always right.お客様は常に正しい」 とする顧客セントリックの考え方と実践がノードストロムの神髄であると感じています。

 今回のコロナウイルスの問題でも、ノードストロムは他社に先駆け3月8日に、顧客に対してメルマガを配信。 「エリック&ピート・ノードストロムから」 という形式ばらないこのメールは、「コロナウイルスによる私たちのコミュニティへのインパクトが高まる中で、お客様の皆さんと直接にコネクトし、皆様と従業員そしてコミュニティの安全と健康を守るために、私どもが店舗とビジネスを通じて取り組んでいるステップをシェアしたいと思います」の書き出しで始まる短いものですが、同社が行っている消毒や販売スタッフの行動などを簡潔ながら誠意と具体性のあふれる文章で伝えるもので、感銘を受けました。(ちなみにエリックとピート、とは、同社の経営トップ、CEOとチーフ・ブランド・オフィサーです)。

 このメールは業界に反響を呼び、あるコンサルタントは、“すべての会社のテンプレート(ひな型)になるもの” と高く評価しました。その後1週間たって、多くの企業が同様のメールを送り始めました。ひるがえって日本では、米国より早くからウイルスの拡大に神経をとがらせて来たにもかかわらず、私のところに来るメルマガはいまだに「新着ご案内」や「あなたへのおすすめアイテム」ばかりであることを悲しく思います。

 「小売業の未来形」について、ご意見をお聞かせ下さるとうれしく思います。

                               NRFリポート④ End

< NRF 大会 リポート③ 急拡大する “リセール(中古品)” ビジネス>

 リセール/ユーズド品ビジネスの拡大が、今回のNRFで大きく取り上げられました。先回紹介した 「NRF小売り10大トレンド」でも、トップに上がったのが、消費者はユーズド/リコマースに貪欲」でした。今後ますます増加するであろう “セカンドハンド・ビジネス”の動きと、ファッション・ビジネスの未来を大きく変える可能性があるこの問題を考えてみたいと思います。

 リセールの最大手マーケットプレイスのスレッドアップ社(thredUP)とGlobal Data社の合同調査によれば、2018年に240億ドルであった中古アパレルの市場規模が、5年後の2023年には2倍以上の510億ドルに達すると予測し、その伸びは急拡大するリセール(中古品の再販)によるところが大きい、としています。(図 1 参照)

(図 1:チャリティへの寄付やリサイクルショップ売上などを濃いブルーで表示。ライトブルー表示が リセール thredUP社 ホームページより)

アパレル中古品市場の急拡大。リセール(ライトブルー表示)が貢献

 この調査では、2000人の回答者の64%が、リセールを「利用している」 または「今後利用する」と答えています。特に若手では、「すでに利用」がミレニアル世代の29%、Z世代では37%に達しているとのこと。

 またこの伸びが、かつてのECの成長カーブと同じ軌跡をたどっている、というのも、注目すべき点です。(図2参照)

(図 2:「Eコマースの成長カーブと同じ軌跡をたどるリコマース」画像はTerracydleプレゼンより。NRF提供)

Sustainability Gen Z &<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />
Millennials<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />
New Models<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />
37%<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />

 この動きの背景には、無駄な消費行動を抑えよう、というサステイナビリティへの強い流れがあります。かねてから言われてきた、3R (Reduce=使用資源や廃棄物の削減、Reuse=繰り返しの利用、Recycle廃棄物等を原材料やエネルギー源として有効再利用)が、社会経済環境の激変とテクノロジーの進展により、ビジネスとして急浮上しつつあるといえるでしょう。直接的な背景としては、①価格と価値を考える「賢い」消費者の増加、また、②若者がリードする価値観(社会善への意識や、新品ブランドをひけらかすのでなく高品質のものを使い込む価値観へのシフト)、③ミレニアル世代やZ世代の日常となったSNSによるコミュニケーションや中古品への抵抗感を低減、などが、市場を広げているからです。

 リセール・ビジネスは様々な形で行われています。リーマンショック以降に誕生した、ブランドものの再販サイトThe RealRealMaterial World、さらにフリマアプリのPoshmark。あるいは最近の追従組、百貨店のMacy’sJ.C. Penney、あるいは GapBanana Republic, Athleta含む)やMadewellは、いずれも後述する リセール・プラットフォームthredUP との連携によるものです。他にも、NordstromAmerican EagleUrban Outfitter などがユーズド品の販売を開始。百花繚乱の感じになってきました。

 これらの動きの中で、特に注目したい3つのビジネス事例があります。thredUPTerraCycleYerdle、です。これらが、単なるリセール、リユースの枠を超えて、今後のファッション・ビジネスを変えて行くであろう方向を、注視したいからです。

 

thredUP=スレッドアップ>

 スレッドアップ社は、サンフランシスコを本拠とする、世界最大のファッション・リセール・マーケットプレイスです。中古品のオンライン買取、販売、小売りへの委託販売を行う、“Resale-as-a-Service”(同社CEO言)。創業は、ボストン近郊。

 起業のきっかけは、現CEOジェームス・ラインハルト氏が、ハーバード大学院生(公共政策とビジネススクールのダブル専攻)であった2009年に、現金が必要になり、クローゼットの着ないシャツを リサイクルショップに持ち込んだところ、うちが扱っているブランドでない、メンズは扱わない、の理由でダメ。そこで自ら友人をリサチをし、「皆、クローゼットに沢山服があっても、3分の1しか着ていない」 ことを把握。何百万ドルがタンスに眠っている!と、起業を決意。

 しかしこのビジネスは、モノの引き取り・点検・在庫・値付けなどを、他人任せでなく、自らやらねばならないと気づき、Upcycle Centerを設置。現在では、世界最大のハンガー・ガーメント倉庫を2つ所有最先端テクノロジーと高度なロジスティクスを駆使して、常時200万点のアイテムを在庫、毎日新規4.5万点をアップ。35,000 以上のブランド(GapからGucciまで)を最大90%引きで提供するモデルになっています。

 製品の引き取りは簡単。手持ち衣料を売りたい人は、Clean Out Kit (大きな水玉柄の袋セット)を取り寄せ、それに不要な服を入れ、返送(無料)。FedExへの持ち込みも  OK。代わりにキャッシュか、買い物用クレジットをもらう。あるいは、指定のチャリティ団体に寄付(5ドル)することも可能。“セカンドハンドの服をファーストハンドの楽しさで!” がキャッチフレーズす。

 あるサミット会議で、「毎年320億点のアパレル製品が提供され、その64%が廃棄される実態」を知り、「世界的問題であるCO2削減に取り組むこと」の重要性に気付いたラインハルトCEOは、以来、2019年だけでも、1.75億ドルのファンドを獲得。メイシーとJCペニーに 「Resale as Service」プログラムのパートナーシップを確立。リセール・ビジネスの最前線を走っています。

 「そのこと自身が良いことであるビジネスを確立できれば、成功の確率は高い」とラインハルト氏は言います

 

 

TerraCycle=テラサイクル>

 テラサイクル社は、2001年創業の、廃棄物処理/リサイクルの会社です(本社はニュージャージー州)。ファッション製品に直接取り組んでいる事例ではありませんが、サーキュラー経済を志向するLoopと呼ばれるプロジェクトを立ち上げ、2019年の世界経済フォーラム(通称ダボス会議)でこのサーキュラー・ショッピング・プラットフォームを発表、話題を呼びました。世界的な大手消費財メーカー、例えばユニリーバやタイド、ハーゲンダッツなどに、洗剤やアイスクリームの使い捨て(Disposable)容器をやめ、永続性ある(Durable)容器を使用するよう提案し、実現している会社です。消費者は容器料金を払いますが、後で払い戻される仕組みになっています。「21世紀の牛乳配達マン」とCEOが言う、フルサイクルの再利用、を目指しているのです。

 創業者のトム・ザッキー氏(現CEO)は、4歳の時チェルノブイリ原発事故で、ハンガリーから両親(医者)とカナダに移住。カナダのコンサーベイション(自然保全)意識に大きな刺激を受けました。その後、プリンストン大学で経済と社会学を専攻。大学1年生の時、2万ドルでフロリダの連続コンポスティング(堆肥化)・システム会社を買収し、プリンストン大学の食堂から出る有機性廃棄物を細菌により肥料に転換するビジネスをスタート。 2006年にTerraCycleの活動により ビジネス誌 Inc. で、” 30歳以下のCEO No.1″ に選ばれている人です。

 「この壮大なプロジェクトは、失敗するわけにゆかない。失敗すれば2度と再トライが出来ないから」 とビジネスとして成立させる努力をするザッキー氏ですが、2019年ですでに、米国の売り上げ1120万ドル、純利益180万ドルを達成しています。2019年の売り上げの昨対19%アップに貢献したのは、ウイリアム&ソノマや、リーボックの参画が大きいとのこと。ウォルマートも自動車のカーシートのリサイクル・イベントをローンチし、予想を超える反響で期間を繰り上げ閉会した、と聞きます。

 CNNビジネスニュースはザッキー氏を、「廃棄物なしの世界を、心底から夢見ているビジョナリーだ」と評しています。日本では、プラスティック袋や容器の廃棄削減への動きがようやく出てきたところですが、世界の意識と行動は、かなり先を行っていることに焦りを感じます。

 

 

Yerdle=ヤ―ドル>

 ヤドル社は、2012年に、カリフォルニア・Benefit Corporation として創立されました。Bコーポレーションとは、公益会社、つまりビジネスの力を使い、利益の追求と同時に社会と環境に対する優れたパフォーマンスを追求する組織。 設立の目的は、ファストファッションがもたらす様々な課題を解決する、サーキュラー(循環型)のビジネスモデルを目指すことです。

 創業者のアンディ・ルーベン氏(現CEO)は、大学で構造工学とMBAを専攻、製造業やグーグル勤務のキャリアをもつ人ですが、ウォルマートのサステナビリティ統括責任者だった時、人々が自宅に不用品が山積していても気にせず、新しい物を買うのに疑問を抱き、サンフランシスコの革新的実業家たちとともにYerdleを立ち上げました。事業の目標は「最終的に私たちが買う必要のある物を25%削減させること」。

 その先見性は、20181月のダボス会議で 「サーキュラー経済の未来で注目すべき6社」 に選ばれていることからも分かります。選考理由は、「ファッションのブランド企業が自社の製品を買い戻し、再販することを可能にするプラットフォーム・ロジスティクス・売買用インフラ、を提供する」です。

 Yerdleは、はじめは雑貨のリセールを扱うサイトとしてスタートしましたが、ブランドものでなければ売りにくいことを体験し、2016年からは消費者の信頼を得ているブランドに絞った再販の背後業務(在庫のフローや検品などのマネージ)にシフト。

 ビジネスモデルは、収益をブランド側とシェアする形式で、割合は請け負う背後機能の範囲で異なります。ブランド自身が多くを受け持つケースもあれば、アイリーン・フィッシャーのようにブランド側はブランドのポジショニングだけを行い他の背後業務はヤ―ドルに任せるケースもあります。

 ヤ―ドルは、他のオンライン業者と違って “小売り”ではないことから、ブランドにとっては顧客情報を取られることもなく、またヤ―ドル側も製品の信ぴょう性を確認する必要もない。なぜならブランド自身が直接かかわっているからです。

 ヤ―ドル社の取り組み先には、アイリーン・フィッシャーのほか、パタゴニアやREIがあります。NRFのセッションでは、パタゴニアのコーポレイト開発責任者フィル・グレイブス氏が、同社の“Worn Wear” (着用された服)プロジェクトを紹介。同社は1970年代からリペア、リセリング、アップサイクリング、リサイクリングに取り組んでおり、すでに世界70箇所のリペア・センターで、毎年10万アイテムを修復しているとのこと。「2017年には本格的にリコマース取り組み、Worn Wear再販事業部を立ち上げた。顧客はパタゴニア製品を店舗に持ち込んだり郵送したりして、それに見合うギフトカードを受け取る仕組み」で、集められた製品は、ヤドルに送られ、そこでクリーニング、撮影、在庫登録、ネットにアップ、となります。「2017年以来13万点のユーズド品が2度目の命を与えられた」。「我々ブランド側が、顧客のブランド体験全体をコントロールでき、それが最高のものであると保証できるこの仕組みが気に入っている」 とグレイブス氏は強調します。

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 今回のNRFで特に注目したことは、リユース・ビジネスの拡大が、これまでのように趣味的古着や蚤の市、あるいは節約のための中古品購入といった単純な消費活動の拡大ではないこと。サステイナビリティへの総体的取り組みが、原材料や生産工程の資源・エネルギー削減だけでなく、ファッション製品の循環型利用を含む、新たなエコシステムの構築へと動いていることです。リコマースの新たなプラットフォーム誕生や、製品のオーセンティフィケーション(認証)、ロジスティクス(リバース物流も含む)、などが組み上がりつつあるのです。まさしく ファッションの“サーキュラー・エコノミー” すなわち「循環型経済」、あるいはクローズド・サプライチェーンの形が見えだした、と言ってよいと思います。

 事例として取り上げた3つの会社の、創業者の想いあるいは起業のきっかけには、サステイナビリティを身をもって実践しようとする、情熱がほとばしり出ていることを感じます。“陳腐化促進”が価値創造の重要な部分であったこれまでのファッション・ビジネスが、もう先延ばしできない地球環境保全の問題をどう解決するのか。この産業の取り組むわれわれ全員に突き付けられている課題です。

 さらに、ファッション・ビジネスにおけるブランドの重要性。自分のブランドの価値の恩恵(利益)を、不用意に他者(例えば他の再販業者)に提供してしまう、といったこれまであまり気に留められなかったビジネスの仕組みも、改めて考え直す必要があります。自分のブランドは、自分でストーリーを創り、自分で価値を創造・増幅し、大事な顧客づくり・ファンづくりをすることで、自分でコントロールする。そんな時代が近づいています。                                                                                                                                                        リポート③ End