新型コロナに関する緊急事態宣言が全国的に解除され、約 1 か月半の巣ごもりから解放されました。まだ 感染第 2 波の心配もあり、東京は今日 “アラート”信号も出ましたが、外出禁止がとけたことで、精神的にはホッとしています。心配されていた感染爆発を免れ、死者数も世界各国と比較しても極めて低い数字に抑えこんだ日本。その主たる要因を検証することは、今後のために不可欠ですが、とりあえずは、日本人の衛生観念、自粛要請への協力・努力、そして医療環境の整備と医療関係者の献身的な努力、などの成果と、改めて感謝と誇りを感じます。 と同時に、感染されたり身内が亡くなられた方、経済的困窮に陥られた方には、心からのシンパシーと励ましの気持ちをお送りしたいと思います。

 COVID-19パンデミックは、前例のない “健康危機”と世界的な “経済ショック”の同時発生です。感染拡大は、現在も世界各地で続いています。これまでも、リーマンショックや東日本大震災などの危機はありましたが、今回は、世界的な、そして感染がもたらす「命への脅威」であり、人々の日常的生き方、家族、コミュニティ、社会などの在り方を大きく変えつつあります。

 今回は、都市封鎖が徐々に解除されつつある欧米の動きを見ながら、“ポストコロナ” あるいは “ウィズコロナ” の世界がどのように変わるか、について考えました。人々の価値観、生活の仕方、働き方がどう変容しつつあるか? そしてそれに対応して、ビジネスがどう変わらねばならないか? です。 

 

◆   人々は、幸せに生きることの価値を、考え直している

 マッキンゼー社が興味深い調査をしています。このパンデミックが世界の人々に、どのような価値観や生き方の変容をもたらしているか? (Reflection in Crisis2010527日公開 『ロックダウンが我々に、何が重要なのかの再発見を助けてくれた』)     この調査結果で判明したことは:

①    人との個人的関係の深化―― 「家族や最愛の人が最優先、と常に考えてはいたが、実行していなかった。その実行は“楽しく心地よかった”」

②   幸福のために何が不可欠かの再評価―― 「幸せであるために必要な、収入と職業上の成果を再評価中。働く時間を減らしても、その収入でやれるなら、家族との時間を重視したい。キャリア目標は以前より重要でなくなった」

③   「健康第一」マインド―― 健康は、国、年齢、社会経済レベルを問わず最重要に。「私に起こった長期的でポジティブな変化は、健康、健康、そして健康。どんなに多忙でも、仕事が山積していても、肉体的そして精神的な健康のために時間を取ることが、いかに重要かが分かった」 

ビジネス・リーダーが注目すべきこととしては:

④    新しいトレードオフ―― 働く人の個人的キャリア目標が変化すれば、給与と、働き方の柔軟性、短距離通勤、ゆったりした仕事のペース、 等のトレード(取引)が進む。営利企業より非営利組織で働く人が増える可能性も。ワークライフ・バランスを、企業のお題目から、企業のリアリティにすべし。

⑤    新しいボスは=消費者―― ウォルマート創業者サム・ウォルトンが言ったとおり、 「ボスは一人しかいない。それは消費者。買う店を他店に変えるだけで、企業の会長から担当者まで解雇できる」。企業はいま、多くの“新しいボス”を迎え入れようとしている。これまで消費者行動として理解されていたものは、永遠に捨て去られた。代わりとなる“新しいもの”=評価・判断の基準=が、スピード感をもって登場する。

 

 こういった変化をとらえた素晴らしいメッセージ・ムービーを見つけました。

ビームスの 『会いたい。』 です。「会えない今だからこそ、大切なものに気が付く」。 (画像参照)

        「Dear friends. 〜 わたしの世界篇」

STAY HOME 週間に生まれた企画だとのことですが、「私には友達がいる。、、」 の語りで始まるベランダの友人たちの写真。この「Dear friends. ~ わたしの世界篇」 のビデオは、まさしく外出自粛がなければ気づかなかった、人のぬくもり、友人の大切さです。 

→ Dear friends. 〜 わたしの世界篇

 

◆ 経済へのダメージ

 今回のパンデミックでは、過去に類を見ない大きさのダメージが、非常に広範囲に及んでいます。V字回復は望むべくもありません。わがアパレル/流通業界では、「回復には少なくとも 年は必要」、などと言う人がいますが、「回復」とは、どのようなことを指しているのか、あらためて真剣に考える必要があります。現在抱える過剰在庫や当面の資金の手当てがつき、「3密」回避を実現する安心・安全な小売り営業の手法が開発されたとしても、コロナ以前の旺盛な消費マインドとビジネス成果が「復活」することは、ありえないと思われます。

  企業倒産も増加。財務的な問題を抱えていた企業がコロナの引き金で破産、民事再生法申請に至った事例は、5月に入って老舗アパレルのレナウン、米国では大手高級百貨店のニーマン・マーカス、大手GMS J C ペニー、また著名 SPAチェーンの J. クルーなど、目立っています。ユニークさで人気があったPier 1 Importは、廃業に追い込まれました。倒産・破産は今後も続くと思われ、店舗数の大幅縮小は、時の流れとなっています。ノードストロムでさえ、フルライン店 116のうち 16店を永久閉鎖、傘下の著名セレクトショップ、ジェフリーズ4店も閉鎖し、ジェフリー・カリンスキーも同社を去りました。M&Aも進むと思われ、J C ペニー(242店の永久閉店はすでに発表済)の一部あるいは全店舗をアマゾンが買収する、という噂も現実味があります。
  米国の、4月の小売全体の売上は、16.4%の減少。とりわけファッション関係は、78.8%減と、史上最大の落ち込みです。ネット販売も4月には世界で 209%増などと報道されていますが、売り上げは上昇しても、コロナ対応関連コストや宅配競争、人手確保等の経費上昇で、黒字になっている大手企業はウォルマート等を除けば、わずかです。

 ロックダウンが段階を踏んで解除されてゆく中、企業はいろいろな工夫で、社員と顧客の安全を確保しながら、ビジネスの回復に懸命です。例えば、BOPIS(ネット購入・店舗ピックアップ)は 2.5倍に伸び、一般化したカーブサイドピックアップや宅配、置き配、などに加え、マスク着用や消毒液準備、ソーシャル・ディスタンシング、入店制限、コンタクトレス決済、などが進んでいます。それでも、消費者は来店に躊躇。ファッション関係では若者の一部が安売り店などに出向く以外は、おしゃれ目的のショッピング(ブラウジング)をする動きは少ない。顧客が試着した商品は、日間売り場から取り除く(ノードストロム)、あるいは試着後クリーニングや熱アイロンで殺菌処理をした服が、“新品には見えなくなってしまう”(ミラノのブティック)、などの苦労も報道されています。店が再開しても、試着室には入りたくないという人は、女性で 65%、男性で 54%に達します。 

 大胆な戦略も注目されます。ウォルマートは中古衣料の大手 ThredUpとパートナーを組み、リーバイスやチャンピオン製品などを含むリユース製品販売に参入。“隣同士が助け合い(Neighbors Helping Neighbors)”プログラムを SNS  Nextdoor の起用で開始、など、同社のアグレッシブな戦略には、1 か月で 15万人の新規雇用や従業員へのコロナ手当 10億ドルも含め、目覚ましいものがあります。そのほか、REIWest Elmの 35アイテムの提携なども話題になっています。

  ファッション・デザイナーの世界でも変革が始まりました。コロナ以前から、疑問視され改革が求められていた様々な業界慣習が、今回一気に表出しました。巨大な経費をかけ年に5~6回開催されるコレクション・ショーのバーチャル化や回数削減、7月にウールコートを売るなどの、生活から乖離した業界慣習の“シーズン”(いわゆるファッション・カレンダー)などの改革です。コレクションを年5回から2回にすると発表したグッチのアーティスティック・ディレクター、アレキサンドロ・ミケーレが、「シーズンごとに繰り広げられる派手な回転木馬に “Basta! もういい” と叫んだ」 とBoF は報道しています(5月26日)。ミケーレに 「来るところまで来てしまった」 と言わしめたファッション・ビジネスの華麗・華美志向のエスカレート。これもパンデミックで、エッセンシャル(本質)を取り戻すことになるでしょう。 

◆   デジタル化の急速な進行 ―今こそ トランスフォーメーション(変容)のチャンス

 こういった中、見えてくるのは、本質(真に意味のあるもの)を効果的に=スピーディで安価で簡便に、中間業者抜きで=獲得するための、デジタル化への動きです。

 ファッション関連では、ネットやSNSショッピングは勿論のこと、ビデオ・ストリーミングやバーチャル・フィッティング、チャットや リモート・パーティ(ヴォーグ社はアメリカ高校生の大イベントProm=ダンスパーティをZoomで開催)、そのためのスタイリング・サービス、あるいは、コンタクト・フリー(無接触)の対話や支払い、などが急ピッチで進んでいます。 「デジタル化は周回遅れ」と言われる日本でも、今回のコロナ禍で人々は、テレワークや リモート授業、Zoom等での会議や飲み会、オンライン診療やウェブ面接、ハンコ無しの承認、バーチャル音楽会などを、部分的とはいえ経験し、その価値を認識しました。ネットショッピングも違和感なく行えるようになった人も増えました。当局もやっと日本のデジタル化の遅れに危機感を持ったようです。

 働き方も大きく変わるでしょう。在宅勤務を経験した女性の7割以上が、今後も続けたいと言い、主要企業100社のトップの9割超が、テレワークを今後も継続すると答えています(いずれも日経新聞)。

 経団連会長企業の日立は、在宅勤務に後押しされて、世界標準の「ジョブ型」雇用に移行すると発表。日本的経営を支えてきた 「メンバー型」雇用 (ゼネラリスト養成に適した、職務を特定しない人事・採用)からの脱皮、という大変革に取り組むと言います。伝統的な終身雇用を基盤とする日本型の仕組み、それ故に、専門職や女性の活躍を阻んできた仕組みからの、転換の拡大が期待されます。

◆   ファッション・ビジネスの未来:ポストコロナは?

ファッション産業の未来は、従来の延長性で考えれば、かなり悲観的なものになるでしょう。ファッションが自由裁量支出(不要不急)であること、ディスカウント志向・価値志向、ソーシャル・ディスタンティングなどの新たな生活スタイル、などの潮流が定着すると考えるからです。しかし人々が、自分や家族を大事にし、ユニークで快適でサステイナブルな衣服や小物を着用したいという気持ち、すなわち“心が喜ぶ消費”は、逆に拡大すると思われます。アップサイクリング、中古販売、DIY(生活者が自ら創る)、3D活用のモノづくりなどを含め、サービスと合体したファッションの新ビジネスを、革新的企業、あるいは、SNSなどの新たなツールが実現することを、私は期待しています。

 ここで重要なことは、ポストコロナへ向けての変革、あるいはトランスフォーメーションは、これまでのしがらみから離れて、ゼロベースで考える必要があることです。「今、New Normal (新たな常態)を前提に、“新たに” “このビジネス”を、“利用可能なテクノロジーを活用して” ゼロから立ち上げるとしたら?」、「誰をターゲットにどんな独自性をもって始めるのか?」、と改めて自問し、根本からスタートしなければ、従来のビジネスのパッチワークになってしまうでしょう。

  ファッションに限らず、あらゆる産業の企業が実践すべき、ポストコロナの行動について、マッキンゼー社が、 「Next Normalの考察から実現へ:何をやめ、何を始め、何を加速するか」 と題した論説を発表しています。(“From thinking about the next normal to making it work: What to stop, start, and accelerate. 2020. 5.15)。 そのための 7つのアクション」 が非常に示唆に富むものなのでご紹介しましょう。 注:同社は、New Normal(新たな常態)ではなくNext Normal (次なる常態) の表現を使っています。>  

<ネキスト・ノーマルへの つのアクション:何をやめ →何を始め、何を加速するか

1.オフィスでゆったり仕事 → 効果的リモートワーク

2.ライン/サイロ(縦割り組織) →ネットワーク/チームワーク

3.ジャストインタイム→ジャストインタイム&ジャストインケースJIC=万一のために)

4.短期のマネジメント → 長期視点のキャピタリズム

5.トレードオフ(二律背反=両立は成り立たない) → サステイナビリティも包含

6.オンライン・コマース → コンタクトフリー(接触なし)経済

 7.単純な復帰 → 復帰 & 再考/再構想

 

 これらのアクションについては、次回に詳しく述べたいと思っています。 

                                                             End