サステイナビリティへの機運が盛り上がってきました。「SDGs」が小学生の間でもキーワードになっていて、「何かSDGsやってる?」といった会話が飛び交っていると聞きます。個人の日常レベルでも、消費者は、レジ袋削減、過剰包装の削減、水やエネルギー資源の節約や汚染の防止、適切なゴミ処理、など、色々な努力をしています。

 繊研新聞に 『 “ブランド” として取り組むサステイナビリティを考える――責任ある製品づくりと循環型FBモデルの確立を』 のテーマで、読者の皆さんに考えて頂きたいことを書きました。“ブランド” として、とした理由は、消費者の参画無しでは進展が困難なこの “持続可能な世界”をつくる運動が、消費者が直接認識する個々の“ブランド”の姿勢と行動に大きく依存するからです。(2021年5月10日付。以下に添付)

 特に強調したかったのは、「循環型のファッション・ビジネスのモデルを目指そう」 です。詳細は記事と、米国デザイナーのアイリーン・フィッシャーの考え方、「服に3つの命を」を願う尾原の想い、そして欧州最大のEコマース企業 Zalando(ザランド) の最新の取り組みのご紹介で、ご覧ください。

(繊研新聞 サステイナビリティ 尾原寄稿 2021.5.10 掲載)

■アイリーン・フィッシャーが 掲げるビジョン  「服に3つの命を」

コンセプトは、次の図にあらわした通りです。(アイリーン・フィッシャーのホームページの図に、尾原が日本語とプロセス図を加筆)

 

 アイリーン・フィッシャーは、1984年、日本の着物のシンプルさ・自然美・ドレープに魅せられ、また長い間丁寧に愛用する考え方に感銘し、インテリア・デザイナーから転職、350ドルの貯金を元手に、大人のキャリア女性向け、着回しの良い高品質ブランド、として起業しました。以来、「ファッションが若い人に偏重し、変化を追いすぎる」、「主役は着る人。流行に振り回されないタイムレスなスタイルを」を信条に、サックスやノードストロムなどの高級百貨店や自社店舗でビジネスを展開する、売上200億円超の企業です。

 サステイナビリティにも早くから取り組み、オーガニック素材や生産ロス削減などに注力(島精機のホールガーメント機も早くから活用)。  自社製品の不用品回収も2009年に開始、以来150万点を回収し、必要な補修や再加工の後、自店で再販。また、補修不可能なものは、ファイバーにほぐしてフェルト化した生地や製品に再生するなどの、リサイクルをしています。

 「服に3つの命(ライフ=生命)を与えよう」、が同社のビジョンです。第一の命(新品)、第二の命(修理やリメイクでの再利用)、第3の命(原料にリサイクル・再生)、による、循環型の物づくりと販売、そして顧客満足(ファンづくり)を実践するのです。顧客(消費者)を啓蒙し、巻き込むことも重視し、2018年にはニューヨーク(ブルックリン)に、大型の工房(消費者のリメイクなどの研修の場)をもつ旗艦店を開きました。

 サステイナビリティを目指すファッション・ビジネスにおいて、自社ブランドを大事にする企業が出来ること、やるべきこと、を、まさしく実行しているアイリーン・フィッシャー。華々しい広告とは無縁の会社ですが、ぶれない信念とそれを実現して行くビジョンと行動力を熱烈ファンが支援する、新時代の“ブランド”と言えるでしょう。

 

■    Zalando (ザランド) が 顧客のための “サステイナブル・フィルター”をアップ

 ヨーロッパ最大手ECサイト 「ザランド」(Zalando)は、ドイツを本拠に欧州全域に展開する2008年創業のECマーケットプレイスです。米国ザポスのビジネスにヒントを得て、靴のサイトとしてスタート、現在ではアパレル・アクセサリーなど2500ブランド扱う、売上 80億ユーロ(2020年、約1兆円)のビジネスです。

 サステイナビリティへの取り組みで注目したいのは、今年4月にローンチした“サステイナブル・フィルター”。これは顧客がサイトにアクセスすると、その個客が選んだ“フィルター(選択肢)”を通じて、お薦めブランドなどが登場する仕組みですが、これに“サステイナブル・フィルター”が加わったのです。具体的には、個客のサステイナビリティに関する価値観/優先順位で、「動物愛護」、「エミッション(CO2排出量)」、「原料再利用」、「水資源保全」、「労働者幸福」、などの中から個客自身が重視するフィルターを設定し、それをクリアしているブランド/商品が提示される、という仕組みです。

 これに先立ち同社は、2020年5月に、取引のある2500ブランドに、環境と社会への影響に関する必要な情報のすべてを提示するよう求めました。もしも基準を満たさない場合は、小売業者はすべての取引を中止される、と。このイニシアチブ実行のため、「ザランド」はパートナー企業に、2023年までの3年間の猶予を与える、としています。評価ツールとしては、米国カリフォルニアの「サステナブル・アパレル連合(Sustainable Apparel Coalition」が提供する、企業向けのバリューチェーン測定ツール、「ヒッグ・ブランド&リテールモジュール(Higg Brand and Retail Mondule)」を使用し、各ブランドを、エコロジー、人権、および公平性の観点から分析して各小売業者のパフォーマンスを評価する、というものです。

 ネット販売で、個客(顧客)の利便性のために各種のフィルターを設定している企業は、欧米には相当数あります。Zalandoでも、以前から、サイズ、ブランド、色、マテリアル(カシミアなど)、オケージョン、特別サイズ(Standard、Maternity、Plus size、Petite、)、コレクション、スタイル(boho、dress、casual、elegant dress、sporty、)、新規入荷(今週、先週、今月)、キャンペーン、配達(Prime、自社配達、店舗から、)、などがあり、このフィルターを選んでおくことで、顧客の閲覧がす速く、無駄なく行われることを狙っているのです。

 日本でもEコマースが拡大しつつありますが、OMOなど企業側のメリットを考えるばかりでなく、顧客にとって真に便利な仕組み、例えばこの“フィルター設定”などが進むことを期待するものです。

 サステイナビリティへの企業の取り組みは、背後のサプライチェーンばかりでなく、顧客との接点で出来ることが、色々ある。“ブランド”を大事にする企業には、是非、実践していただきたいと願っています。                                                                                                                                                                                        END